アニメの『劇伴』(ゲキバン)についてのまとめ。
二回目はいよいよ劇伴の作り方。
多くなりそうなので、ある程度ざっくり書きますね。
楽器、音色
効果音と間違うような音を避ける
効果音と聴き間違えるような音、注意が向きすぎる音を避ける。なるべく楽器音として聴きなれたものにする。
といっても平凡すぎると作品としては面白くないので、どこまで大丈夫なのか、バランスをみながら遊んでいく。
演奏ノイズを入れない
キーノイズ、ブレスノイズなどを入れない。
映像に他の人間の気配を感じてしまうため。
特定の空間を感じさせない
映像と音楽がチグハグな印象になってしまう。
反射音の多いルーム系のリバーブをつけない。反射のわかりやすい空間での録音を避ける。
パーカッションやドラムを入れすぎない
会話と一緒にパーカッションが多く鳴っているとうるさくなってしまう。
目立つ帯域でリズムループが鳴り続けるのも避ける。派手な音でも、鳴り続けることにより目立たなくなり、地味に聴こえてしまう。
キック、スネアは映像よりも音が前に来てしまうので、基本的には音楽を聴かせたい場合だけに使う。
サウンド
セリフ、効果音との兼ね合い
セリフ、効果音が入ることを考えて、声の帯域、定位をなるべく避ける。音を入れすぎない。
映像のタイミングに音楽を合わせる時は効果音とカブらないようにする。
その音楽が流れた瞬間にどういう意味をもつ曲なのかがわかるようにする
短く使われることも多く、また、演出にメリハリをつけるため。
逆に、展開がわからないような、ネタバレをしない曲も求められることがある。
例として、戦闘中に安心したような音や、悲しい音が流れていると勝ち負けがわかってしまう。
不用意な長いメロディを避ける
邪魔になったり、編集で切りづらくなったりするので、長いメロディをあまり使わないようにする。
気持ちを乗せるような曲では、しっかりしたメロディがあるとよい。
むやみに転調やテンポチェンジをしない
編集がしにくいので。もう一段盛り上げるバリエーションとしてならアリ。
不完全な音楽が求められる時がある
展開が読めない場面ではリズム、和声、メロディが不完全な音楽を求められる。
メロディはどこで切れても成立するように、モーダルな使い方をする。予定調和感を避けるため、同じモチーフやリズムを繰り返さない。
遅いテンポの時は、間が多すぎると意味を持ってしまうし、詰めすぎてもセリフのテンポ感とかみ合わなくなってしまう。
機能
何話もあるアニメやドラマの劇伴が映画などの音楽と違うところは、1つの曲を切り貼りして使用するところ。
つなぎ替えたり、前後させたりと、レゴブロックのような機能が求められる。
そういった使用に耐えうるように、かつ、音楽的に設計していく。
汎用性を持たせる
音を入れすぎると、意味や場面が限定され、汎用性がなくなってしまう。
逆に、汎用性を持たせすぎると、作品としての個性がなくなってしまう。
違う曲を並べたときにメリハリがつくようにする
劇伴は、他の曲とのつながりを考慮する必要がある。
同じような場面で複数の曲を作る場合は、楽器、リズム、はじまり方、音域などを変え、連続して流れたときに映像に緩急がつくようにする。
なので、1曲単位ではなく、全体のバランスを調整しながら作っていくということも重要になる。
長めに用意しておく
事前に映像の長さがわかっている場合でも、音のあて方が変わることを想定して、長めに作っておく。
映像の枠の時間で音楽の切り方も変わる
例えば、30分のものより5分の枠の映像のほうが場面が短くなるので、音楽も短く切ることになる。それも想定する。
1曲の作りかた
曲の役割などでも変わってきますが。
・切って使えるフィルやリズムにしておく
・展開や使いどころを1曲に複数盛り込んでおく
・それぞれをつなぎ替えても、どのセクションからはじまっても成立するように
・最後はロングトーンで終わらせる
・長さは1:30~3:00くらい
「楽曲」というよりも「曲素材」みたいな感じですね。
実際の使われ方
■例 ご注文はうさぎですか? 第1羽「ひと目で、尋常でないもふもふだと見抜いたよ」
21:07~の場面、サントラ収録曲は、
「ギターソロ」→「ギター+ストリングス」→「展開してピアノが入る」→「さらに展開」+「ストリングスが入る」→「最初のメロで盛り上がって終わる」
となっているんですが、ここでは最初と最後を21:26でつなげて「ギターソロ→最初のメロで盛り上がって終わる」というふうに短くしてある。
分析するうえでは「使われていない部分を想定する能力」というのも必要ですね。
あまりにも切ることを意識しすぎると面白みがない音楽になる
メロディもほとんどなく、少ないコード進行にして、どこを切っても繋ぎ易いようにしすぎると音楽として面白くなくなってしまう。
機能を満たしながら、音楽としての素晴らしさも同時に追求しなければならないところが劇伴の面白さ。
MA
MAとは、映像に効果音や音楽、ナレーションなどをつけ、バランスをとって、作品の音を完成形にする作業。
MA本番は実際にあるファイルでどうにかするしかないので、なにかあったときに現場で解決できるよう、問題を想定して用意しておく。
ファイルのサンプリングレートは48kHz
映像業界の基準が48kHzなので。
ステムで渡す
混ざっていると切りにくいもの、使い方にバリエーションがもたせられそうな曲は、ウワモノやリズムでまとめたステムトラックで納品する
楽器を変えたものを渡す
同じメロディで、楽器を変えたものを用意しておく。
そうすると、雰囲気がいまいち合わない時に差し替えることができる。
その他
1クールのアニメでは40~60曲くらい作る
早く曲を作れるスキルも重要になる
おわりに
どんな本を見ても、コードやメロディなどの、ただのインストとしての楽曲の作り方しか書いていないんですよね。
こういった、劇伴としての作り方の情報ってあまりない。言いきっちゃっている部分もありますが、全く自信はないです。
参考リンク
内容的には90%くらいこの方たちから得た情報です。
■スキャット後藤さん(@scatgoto )
・ブログ「へなちょこ作曲家、スキャット後藤の南房総生活」
■井内 啓二さん (@inai909 )
・コラム「劇伴一直線」
■タカノユウヤさん(@yuya_27957 )
・ブログ「劇伴とその表現についてのメモ」