音楽に詳しくない方でもわかるように解説してみます
1度でいいから見てみたい、僕の曲をオーケストラが演奏しているところ。
どうも、こおろぎ(@kohrogi34 )です。
アニメの制作現場をリアルに描写したアニメ「SHIROBAKO」。その17話で映像につける音楽、いわゆる「劇伴(げきばん)」のレコーディングの場面がありましたね。
動画の10:03から。
楽譜まである。
実際の楽譜やレコーディング風景がそのまま描写されていて、リアルな現場を学ぶには持ってこいではないですか。
現代のオーケストラの譜面は市販されているもので大体1曲1万円。この1ページだけでもかなり値打ちがあるんです。そもそも販売されない事も多い。普通は見れないものなんです。しかも巨匠、浜口史郎さんの譜面なわけです。大興奮です。
というわけで、今回は自分の研究がてら、なるべく音楽に詳しくない方でもわかるように解説してみたいと思います。
大前提として、このシーンは実際のものとは違うんじゃねえかっていう話もありますが、現場の映像、楽譜をそのままトレースしてるはずなんですよね。そのほうが現実感あるし、楽だし、いじる理由がない。
解説されたものがまとめられてた
考察しようとしたら、すでにアクネス(@yasto_32 )さん、その他の方が解説してました。しかも僕の知識より詳しい。
SHIROBAKO第17話をみて劇伴の解説をしてくれる人がいた。 – Togetterまとめ特定した。 ビクターの301だな、さっきのスタジオ。 http://t.co/bGXcJFxnl4 #musani pic.twitter.com/fU17CAyOLL
— 祥太(9/2レイフレ19 H21+22「SHOWTIME」) (@shota_) February 5, 2015
写真から見ると、第三飛行少女隊のBGMは1stバイオリン-2ndバイオリン-ビオラ-チェロ-コントラバスの準に6-5-4-3-2で計20人のストリングスと金管、木管数人で演奏していると思われる。 #musani pic.twitter.com/FWUl1wep5i
— アクネス@M3秋 う-05a (@acness_music) February 5, 2015
もう一度言っておくが、なぜストリングスの様子だけ映されていてフルオーケストラの音源が調整室(監督たちがいる所)で流れているかというと、ストリングスと金管、木管がそれぞれ別のブースで同時録音してるからである。 #musani
— アクネス@M3秋 う-05a (@acness_music) February 5, 2015
アクネスさんが書いていない、曲の内容についての事も捕捉しつつ、推測で書いていきますので、詳しい方はツッコんでください。
金管、木管がなぜ別ブースかというと、音量の問題が一番だと思われます。
こういった、金管が強く吹かないといけない曲は金管の音量が大きくなりすぎるんですよね。一緒の空間でバランスをとるためにはストリングスセクションの人数をもっと多くしないといけなくなっちゃう。
あとは、レコーディング後のコントロールしやすさですかね。演奏で多少バランスが悪くても後で直せる。
なぜ普通のオーケストラにしたのか
最近は澤野弘之さんに代表されるようにオーケストラ+打ち込みが主流になってきています。
予算の都合もありますが、パソコンで音を重ねる事により、オーケストラのみの状態よりも迫力やバリエーションが出せるようになってきたからです。
これはアニメの手書き+CGという手法に似ています。お互いの得意な部分を組み合わせるイメージですね。
飛行機が出てくる今回のアニメ「第三飛行少女隊」もそういった音楽が合うと思うのですが、SHIROBAKO本編とのコントラストを出す、という演出でスタンダードな編成のオーケストラ風にしたんだと推測します。
作曲者 浜口史郎さんについて
SHIROBAKOの音楽を担当しているのは作曲・編曲家の浜口史郎さん。劇中でも別名で登場します。
・劇場版クレヨンしんちゃん
・ONE PIECE
・ガールズ&パンツァー
などのアニメや
・ファイナルファンタジー
・エルシャダイ
・モンスターハンター
など、ゲーム用オーケストラアレンジのお仕事も多いみたいですね。
曲をオーケストラで演奏できるようにする「オーケストラアレンジ」または「オーケストレーション」というのは専門の知識が必要で、メロディやハーモニーを作る「作曲者」とそれをオーケストラにする「オーケストレーター」が別、という作品も多いです。
クレジットは作曲者のみで、オーケストレーターの名前が表に出なかったりもします。
この作品では、作曲・編曲ともに浜口さんのようです。
楽譜について
監督が見ている楽譜がこちら。
こちらの、演奏者が見ているものは自分のパートしか書いてありません。
レコーディングで使用する、清書された楽譜は作曲者本人ではなく写譜屋さんが作成します。
この譜面はパソコンで制作しているようで、かなりキレイですね。売っているものみたいです。
現場によって違うと思うのですが、かなり昔、青木望さんに現場で見せていただいたものは手書きでした。青木さんも「手書きのほうが読みやすく、早く書ける」とおっしゃっていました。
最近は自動で出力できるみたいなので、作曲者本人が制作することも多いみたいです。
楽譜を読んでみよう
では、楽譜を読んでいきましょう。基本的には小・中学校で習うレベルの五線譜の読み方と同じです。それ以外の部分を解説します。
この場面、10:03~は楽譜の左下、4拍目から次のページの最後までが使われています。このように、同じ曲でも場面によって短くしたり、アレンジしたりという事もよくあります。
これはリハーサルマーク。この記号を目印にして色々な指示をします。
各段の横に省略された楽器の名前が書いてあります。この楽譜に書いてある楽器は9つ。
Fl. =フルート 1人
CL. =クラリネット 1人
Tp. =トランペット 3人
Tb. =トロンボーン 3人
Vin_1 =1st ヴァイオリン 6人
Vin_2 =2ndヴァイオリン 5人
Via. =ヴィオラ 4人
Vic. =チェロ 3人
Cb. =コントラバス 2人
ついでに人数も書いてみました。
この楽譜の並べ方にはルールがあって、上から
木管
ホルン
金管
パーカッション
ハープ
ピアノ
ストリングス
という風に決まっています。今回はオーケストラとしてはかなりの小編成ですね。最小限、といった所です。
この譜面にある楽器だけをレコーディングして、他の楽器は打ち込み(パソコン)で音を足していっているようです。
ハープ、グロッケン、ティンパニ、スネア、シンバル、トライアングルですね。ホルンも楽譜にはないようなんですが、打ち込みなんでしょうか。
あと、木管がフルートとクラリネット1本づつ、というのも気になるポイントです。金管、ストリングスが主役なので、木管はあまり必要ないパートということで削っているんでしょう。フルオーケストラでは入るはずのバスーンやオーボエは完全にいません。
実際のオーケストレーションでもこういった場合の編曲をする時、木管はどこか適当な所に重複しているだけなので、絶対に必要ではないんですよね。
曲調によって削るパートを判断し、最小限の編成にして、それに合わせて編曲する、という技術が必要なわけです。
ちなみに、なぜフルートが1本だと思ったのかというと、前半部分のフルートはヴァイオリンと同じフレーズを吹いているんですが、もし2本あったら1本は2ndヴァイオリンと同じ音を吹くはずなんですよね。それがない。
調はフラットが3つ付く、変ホ長調(E♭)ですが、クラリネットとトランペットだけ調号が違います。
クラリネットB♭とトランペットB♭は移調楽器なので、楽譜の音と実際に出ている音が違います。2つともB♭なので、実際には譜面で書いてあるよりも1音低いです。
あと、移調楽器ではないですが、コントラバスは譜面よりもオクターブ低い音が鳴ります。
E♭やAのクラリネット、イングリッシュホルン、ホルンなど、移調楽器が多い楽譜を読む時は泣きそうになります。慣れると自動変換して読めるそうです。すごい。
前半はホルンのパートがトランペットの所に書いてあって不思議です。これはなんなんでしょうか。ホルンの所はトランペットが鳴っているようには聴こえないのですが。
解像度のお陰でよくわからないのですが、a、b、cでパートに分けてあるのか、a,3と書いてあってユニゾンになっているのかが判断できません。うーん。
再現してみた
海外のファンの考察で見かけたんだが、SHIROBAKOのこの楽譜、正確に記されてるらしい。誰か実践してくれんか #musani pic.twitter.com/PERsY7rg8J
— 江刺場浪 (@Barou4466) February 6, 2015
というわけで楽譜と映像を元に再現してみました。
完全に譜面と一致しました。譜面に書いてない所は聴いて再現してます。サウンドクラウドのエンコードで多少劣化していますが、なかなかそっくりにできたと思います。これはカバーということでいんだろうか。怒られたら消しますので早めに聴いてください。
証拠のスクリーンショットです。こういう感じに音が重なっています。下のごちゃごちゃは奏法を切り替えるキースイッチのものです。
実際に作ってみて思ったのは、僕も道具だけならほとんど変わらないということ。しかし、作曲、オーケストレーションについては僕よりもレベルが遥か上だということ。
例えるのなら同じペンを使って絵を描いてみたような感じで、技術の違いが明確にわかりました。まだまだでした。精進しよ…
技術的な解説
最初、10:03~は力強いトランペットとホルンの掛け合い。お互いに似たモチーフを織り交ぜながら絡み合う。音楽がスタートする場所も相まって拍が取りづらい。
ここの各音はスタッカートとマルカートの組み合わせのような複雑なニュアンスで、打ち込みが難しかったです。
1st、2ndヴァイオリン、フルートはトリルと駆け下り、駆け上がりで背景的に。
金管がだんだんと上昇していくのに対して、チェロ、コントラバス、トロンバーンのバス音は下降していき、2ページ目の2小節目頭でキメ。こうやって八の字型に広がって行くことで期待感が上昇していく雰囲気を出しているんですね。
キメに入る直前の駆け上がりは打ち込みでかっこよくしづらい。僕のコピーは駆け上がっている木管のサンプルを重ねました。
10:11~は3和音のメロディをトランペットとオクターブ下のトロンボーンで。これは最高に力強く、音がデカい最強の組み合わせ。
その他はチェロとコントラバスはスタッカートで力強く。ヴィオラは8分音符でアルペジオ。ホルンとクラリネットも重ねて金管の隙間を縫う細かいフレーズ。
ストリングスは上昇したままスタッカートとレガートを組み合わせたフレーズに移行。このアプローチは素晴らしい。ここも打ち込みだとニュアンスを出すのが非常に難しい。しかも曲の最高音なので目立ちます。
10:20~ 譜面右下になるとチェロとコントラバスはゆったりと、クラリネットのオクターブ上のフルートとグロッケンで重ねて重心を上にもっていく。
最後、10:23~は直前に複雑な和音(EM7/B♭)が金管で積み上がってきて、締めの音はE♭の主音のみ。難しい話をすると、EM7/B♭は裏コードのEM7とドミナントのB♭の組み合わせ。
楽譜はBのホルンの音が抜けていますね。
最後にジャーンと調の主音のみを鳴らすことで、解決感、終わった感がするわけです。
このジャーンの所、ブラスの音量がグッと上がってくるのでニュアンスを出すのに苦労しました。やはり生のほうがちょっと割れているような、ビリビリと力強いクレッシェンドになっています。
終わりに
いやー、めちゃめちゃ勉強になりましたね。僕が。譜面1枚の情報量がものすごいです。
SHIROBAKO自体もものすごく面白いですよね。1ファンとして、みんなにこの場面を楽しんでもらえるといいなと思って、音楽をやっている方、オーケストラ以外の音楽をやっている方に向けて書いてみました。普段マニアックな事ばかり書いているので、わかりづらかったらすいません。
SHIROBAKO最新話はこちらから
僕は基本みゃーもり派ですが、ずかちゃん頑張ってほしい。
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