【第五回】 テレビドラマ劇伴のMA、監督の違い、音楽学校について【スキャット後藤、こおろぎ対談】

音楽でメシ

第四回に続き、スキャット後藤、こおろぎ対談第五回。最終回です。

「MA、監督の違い、音楽学校について」。

大きなテーマでまとめきれなかったものになります。

音楽、音響、セリフ、ナレーションなどの音周りを完成させる「MA」

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スキャット後藤
台本を見てとか、僕と打ち合わせをしてこういう曲がいるっていうオーダーをメールとかLINEで送ったりして、曲ができた。

で、実際作った音楽を映像にあてていく作業は僕がやっていったと。それは、いわゆる「選曲さん」が本当はやることなんですが、今回僕がやることになって。

作曲家さんが「このシーンにこの曲を使いたい」って用意をしていても、違うシーンのほうが活きると思ったら変えたりするんだけれども、今回は比較的用意したところにあてていって。あとは今まで作った曲をどうあてはめていくかっていう。

2話の将棋のやつで、横井さんが将棋の駒を指ではじくところの音楽なんかは、ドミノのシーンの音楽とちょうど尺が同じみたいな(笑)

あれ使えるな、どうかなーと思ってあてていく、そういうのはいくつかあったよね。

こおろぎ
はい。
スキャット後藤
そういう作業をして、実際にこおろぎ君が音楽を作り、僕がその映像に対してこおろぎ君が作ってきた音楽をシーンごとにあてて、それをスタジオに持ち込むんだよね。

それが音楽とか音の仕上げである「MA」っていう作業なんですが、MAって知ってましたか?

こおろぎ
知らなかったです。なんかどこかで名前は見ているんですけど、実際何をするのかっていうのがわかってなくて。
スキャット後藤
実際MAっていうのはどういう作業ですか?せっかくなのでこおろぎ君が。
こおろぎ
音楽とか音響効果とかセリフとか、ナレーションなどの音周りを編集して、最終的な音のデータにするみたいな感じですよね?大体あってます?
スキャット後藤
大体あってる(笑)

撮影をして、編集室で映像が編集をされた後、それをMAスタジオでやる。

MAスタジオってレコーディングスタジオとは全然違うよね。

こおろぎ
はい。映像のモニターがたくさんあって。
スキャット後藤
映像のモニターがあって、それに対してprotoolsのセッションが立ち上がっていて。セリフとか、ワイヤレスのトラックとか、上から録っているガンマイクのトラックであったりとかで。

■実際のMAスタジオの様子。ここでやりました。

scatgotoさん(@scatgoto)が投稿した写真

スキャット後藤
まず音声の話をすると、撮影現場で撮っているので、やっぱり環境がよくなかったりするものは別のテイクから音をはめ直したりだとか、そういう作業もあるし、あとはナレーションも録ってたよね、MAの作業のときに。

横井さん役の清水富美加ちゃんがやってきて、心の声を録りましたね。その作業もMAの一環だし。こおろぎ君もなんかやってましたね。

こおろぎ
え?僕もなんかやってましたっけ?
スキャット後藤
なんかブースにティッシュを持って入っていって。僕もナレーションを録りました。
こおろぎ
あ、やってましたね。(3話、くしゃみで出演しました)

ああいうの結構あることなんですね。

スキャット後藤
結構ありますね。僕も前のドラマで、居酒屋の店主役の声だけをやったりとか、その前もテレビに写っているCMのナレーションやったりとか、現場に来ている人が駆り出されて声を、っていことはある。

あとは、事前に用意した音楽を並べて、監督と効果さんという人が用意した効果音とトラックを一斉にバンと張りつけたものを見るんだよね。そのとき初めて。

るみちゃんのほうでは松下さんっていう方が音響効果と選曲もやられていたけども、関くんのほうは僕が用意した音楽のトラックと佐藤さんという、、映画とかやられている女性の方。

効果さんは音楽がどのようなものが入っているかも知らないし、音楽を作っている僕らは、効果は多分こういうのが入るかなと思っているけど、実際ニュアンスが全然違ったりとかっていうのはある。

例えばドンっていうアタックが、SEが鳴るところと音楽の入りが一緒だったりするとかぶっちゃので、じゃあ音楽後ろにずらしましょうかと、ここはドンという音楽あるのでなくしましょうかとか。

音楽がこのシーンまで伸びているけども、このセリフきっかけで止めましょうとか。

結局10分の作品に、1話4時間とかかかってたよね。

こおろぎ
ああ、それぐらいでしたね。かなり細かい作業ですよね。前のシーンからかぶるのかかぶんないのかみたいな事を。
スキャット後藤
このセリフを受けてなのか、とか、すごい地味な、僕はその作業はすごく面白くて、
こおろぎ
あそこまで細かくやるんだと思って。
スキャット後藤
そういう細かい、いろいろ検証してみてこっちがいいかな、あっちがいいかなっていうのをやったりしていて、っていうのがあるかなと。

そこでSEをこういうSEに変えてほしいから、って言って、効果さんがそういうSEを自分のライブラリーから探してきたりとか。

あのときのシーンで使ったあの音を使いたいっていうんだったらそれを持ってきたりとか、音楽も実際映像あてていったけどここあのときの曲に差し替えたいとか、そういうことがあって、って感じですね。

それで最終的に音周りの完パケをそこでね。編集はまたそこから直したりすることっていうのがたまに、テロップを直したりとか、MAのときに誤字を見つけたりとかそういうことってあるので。

こおろぎ
そうなんですね。あそこが最終ラインじゃなくて。
スキャット後藤
あそこは最終ラインじゃなくて、音周りはあそこで終わりで、そのあとスタジオの人がテープかなんかに戻したりするときに作業してたりはあるかもしれないけど、基本的にはあそこで決まりかなと。そういうのがMAっていう作業。

まあ実際音楽作る人ってあんまりMAに立ち会わないらしくって、僕はガンガン行って、誰とやっているかによっては全然口出さないときもあるけど。選曲さんと音響効果さんと監督で作っていくんで。

でも求められたりすると意見言ったりとか。それがやっぱり劇伴の肝というか。1フレーム前か後かっていうだけで受ける印象が全然違って、それが僕はこの音楽の仕事で一番面白いところ。

こおろぎ
そうなんですよね。そこを普通に見ていると気づかないところなんですよ。
スキャット後藤
そう、だから映像に何も音がついていない状態で「はい、つけてください」って言われたときの難しさっていうのを知る。僕も最初は見ると何していいかわかんないっていう。それがMA。

毎回朝までやってましたもんね。

スキャット後藤
そうですね(笑)
MAは監督さん、ミキサーさん、効果さんとの作業。

音楽の入り、本当に微妙な調整でした。

MAでのスキャット後藤さんは監督に対して色々提案をしたり、音楽の編集ポイントを指示したり、ということをしていました。

静かな場面では音楽とセリフがカブらないようにずらしたり、切り貼りしたり。

最初、他の音が入るということが頭になかったので、セリフやSEが入るタイミングに音を付けたりしてしまいました。

監督によるの音のつけかたの違い

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スキャット後藤
今回8話の中で監督が変わったじゃないですか。あれってどういう印象でした?

映像につける音楽は答えが一通りじゃないわけで、その2人の監督の印象というか、自分がそれを見て感じたことでも、なんでもいいけども。

こおろぎ
まだ2人なので、そんなによくわからないっていうのが正直なところがありますけど。

監督が変わると音のつけ方が変わるっていうのを考えながらやらなきゃいけないんだよなとは思いますね。

スキャット後藤
同じ作品なのに、画の取り方も違うし編集の仕方ももちろん違うし、音楽のつけるパターンとかこだわるところが。
こおろぎ
人によって音楽の尺を長く使ったり、短く使ったり。
スキャット後藤
わかりやすく言うと、細川監督は音楽を細かく編集していった印象で、平林監督は効果音に対していろいろ思考錯誤してたっていう印象が僕はあるかなというのと。

あと、5話かな、あのピアニカの曲のちゃらん・・・って同じフレーズを繰り返すみたいな演出があって。

そういうところで、音楽を壊れたレコード針みたいな感じで同じように繰り返して、みたいな。「あっけに取られている感じを出したい」みたいな提案が出たとき、こういうのは細川さんはやらないなと。

あそこなんかすごくわかりやすいところかなと。

とにかく、映像に音楽をつけることを実際にやったほうがいい

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こおろぎ
僕は、この仕事をやる前に、仕事じゃなくても映像に音楽をつけることを実際にやったほうがいいなと思うんですよね。

趣味で映像作っている人たちに「ちょっと音楽つけさせてくれ」みたいなことでもいいんで、やってみたほうがいいんじゃないかなと。

スキャット後藤
僕が映像に音楽をつけるのを始めてやったのは2001年の自主映画。ビデオカメラで学生が、家で自分でファイナルカットとかで編集したもの。

どこの役者さんか映画監督コースか忘れたけど、ENBUゼミっていうところがあって、その役者さんが来てたワークショップの仕上げとして作品を作るっていうのがあったので、そこでプロの監督が作ったものに対して音をつけて。

出ている役者さんはほぼ素人だったりとか、ちょろちょろっとぐらいテレビ出たりしている人ぐらいみたいな。

豊島圭介っていう監督と2000年にある仕事で知り合って、その自主映画で手伝ってほしいほしいみたいな感じになって、本当安い5万とかでお願いみたいな感じのレベルの。それが初めてで。

それはどっちかというと仕事というか。そのワークショップの中でやっているから、どっちかっていうとギャラは安くても仕事としてやっている。

映画監督になりたいと思って自分たちで撮っている人たちもいっぱいいて、音楽どうしようかって悩んでいる人っていっぱいいるから、劇伴やりたい人はそういう人と知り合って、いろいろ音楽をつけていくと勉強になったりもするんじゃないかな。

実際につけると何が必要なかっていうのがわかってくるから。

すごく勉強している人とか、そういうのが好きな人だったら、こういう勉強してちゃ意味がないんだ、こういうことをしないといけないんだっていうのがわかるから。

なかなかいきなり劇伴の仕事って入ってこないから、今回こおろぎ君がやることになった経緯っていうのはかなり特殊だと思うので。

でもこういうケースもあるってことだよね。知っている人がいて劇伴の仕事を誰かにお願いしたい人がいて、その人がどういう人を知っているか、誰と仕事をしたいかでつながるとそれが仕事になるから、どういうかたちで仕事になるかなんてまあいろいろであるっていうね。

そういう自主映画とかやると、映画関係を目指したいとか、ドラマを撮りたいとかっていう人が周りにどんどん集まってくるから。

こおろぎ
そうですね。そういうよさもありますね。
スキャット後藤
そういうのもいいと。みんなでどんどん登っていくっていうか、商業的なことをやっていくみたいな。そういうのはいい気がするかな。

音楽の専門学校で教えてくれることは本当に役に立つのか

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スキャット後藤
音楽の専門学校だったりとか、そういうところで教えてくれることとか聞いてたりすると、それって本当に役に立つのかな?みたいなところが僕はすごくあって、それだったら実際仕事にするにはどうしたらいいかっていう、実践を踏まえたことをやったほうがいいと。

で、今年僕も自分の事務所で何人かに講座を開いて、っていうのを試しにやってみて、それがその来てくれた子たちに役に立っているかはわかんないけども。こおろぎ君も1回来てくれたけど。

僕は全然何もわからずに劇伴の仕事からCMの仕事から、用語もわかんないし、どういうふうに進めてもいいかもわかんないし、いわゆる先生がいない状態でいろんな仕事をやってきたから。

それで悩むぐらいやったら、1時間ぐらい講義を受けて「誰に営業しに行ったらいい」とかっていうのとか、「CMだとこういう構図になっていてこの人が音楽を決めるからこの人のところ行ったほうがいい」とか、そういうのを知るほうがいいんじゃないかなっていうのがあって。

こおろぎ
そういう事もあっての、この対談の公開ですよね。学校ではあまり教えてくれなさそうな事を話そう、みたいな。

劇伴の仕事をやりたいな、っていう方がこれを読んで参考になったら嬉しいですね。

スキャット後藤
そうだね。

それでは、お疲れ様でした!

こおろぎ
お疲れ様でした!

音声も公開しました!

関連リンク

【第一回】 テレビドラマ劇伴の仕事をもらうまでの流れ
【第二回】 テレビドラマ劇伴のスケジュールについて
【第三回】 「サントラを聴いているだけでは劇伴はできない」テレビドラマ劇伴のつくりかた
【第四回】 「漫才、コント、テレビを見てきたことが活きている」テレビドラマ劇伴の上達方法

プロフィール

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スキャット後藤

 

へなちょこ作曲家。京都市出身。かわいくてたのしくてちょっといじわるな音楽をつくってます。TV :「となりの関くんとるみちゃんの事象」「太鼓持ちの達人」「俺のダンディズム」「殺しの女王蜂」「A-Studio」「きらきらアフロ」Game :「シバ・カーリーの伝説」「POSSESSION MAGENTA」

■ツイッター @scatgoto
■Webサイト http://www.cutecool.jp/

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