曖昧になりがちな楽曲の買取契約についてこの際しっかり勉強しておきたい

ゲーム、動画製作者向け

 
今回は作曲家と発注者の間で交わされる契約の1つ「楽曲の買取」について。

特にインストゥルメンタル楽曲(歌なし楽曲)の場合に多い契約ですね。個人や小さな会社はメール内の文章にて成立する場合がほとんどです。

他にも印税契約などがありますが今回は触れません。

※2014/6/28 大きく直しました。

著作権とは著作財産権と同じものを指し、総称ではないとの指摘を受けたためです。あと色々ツッコミも受けたためです。

楽曲における「買取」とは

独占的に楽曲を使用する権利を買い取る事。

買取あり、なしで変化するのは主に「作曲者の許可を得ず自由に使用してよいのかどうか」と「作曲者が自由に扱えるかどうか」です。

買い取られた作曲者は許可を得ずにその楽曲を使用、演奏できません。そのため、歌モノの楽曲が買い取りされることはあまりないです。

「買取」とは全ての権利を買い取ることではない

一般的に言われている「買取」とは

「音楽の権利のうち著作人格権以外の権利を買い取り、楽曲使用について異議申し立て、著作人格権の行使をしない」

という契約です。

音楽の権利とは

・著作者人格権
・著作権(著作財産権)
・実演家人格権
・著作隣接権(その中には実演家の権利とレコード製作者の権利がある)
・実演家・レコード製作者の報酬・二次使用料請求権

僕も誤解してましたが「著作権」とは総称ではなく「著作財産権」の事です。

また、著作者人格権は譲渡したり、相続したりすることはできませんので、人格権の権利である「公表権」「氏名表示権」「同一性保持権」は行使しない、という契約になるんですね。

この契約だと、最初に提示した範囲を超えた使用ができます。

一般的に言われている「買取なし」とは

「楽曲使用の用途、範囲を提示しその範囲だけ作曲者が使用を許可する」

という認識です。なので、最初に提示した範囲を超えて使用する場合は許可をとるべきです。

また、ゲームで買い取りなしにする場合は、イメージを守るため「他のゲームに使用しない」など独占の契約にしておいたほうがよいと思います。

契約書がない場合はいずれの場合も「一般的に」という曖昧な認識で契約が成り立っているんです。びっくり。

買取りだと制作料金が高くなることも

買取になると、作曲者が楽曲を使用出来なくなってしまいますので、買取なしの場合よりも料金が高く設定されることがほとんどです。

例えば、ロイヤリティフリーの音源としてオーディオストック等の音源販売サイトにて販売したり、作品集としてCDにしたり、出来のよい曲でもサンプルとして公開出来なくなってしまいます。

買取のメリット

独占的に使用できるので、他の成果物と音楽がカブらない事です。発注側がどこまで使用していのか曖昧になってしまう「買取をしないデメリット」もあるのかなと思います。

作曲家側は買い取りなしのほうがいい?

面白い文章も見つけてしまいました。「クロノ・トリガー」などの作曲家、光田康典さんは「権利買い取りだったらやりません」と言ってるようです。慣例になっているだけじゃないかという。

明らかに言えるのは、ゲーム業界の法務の方々に知識がないってことだと思うんですね。だけど一から説明すると「え、そうだったんですか?」という方がほとんどなんですね。だから僕なんかは「権利買い取りだったらやりません」って言うようにしてるんですけど、それは説明したら分かってくれるんですよ。権利をあげると何もかも取られてしまうんじゃないかっていうそういうイメージが法務の方々にあるんですよね。だからそれは、どんどん払拭していって、お互いに出来上がったものを使って有効活用しましょうっていう感覚にすれば、たぶん全然問題なくいけると思いますけど。まだ、ゲーム業界はそういうシステムが成り立ってない。で、音楽業界はゲームよりも昔からやってるんで、そのシステムがもう定着してるじゃないですか。だから安心感があるんですよ、法務の方々から見ると。だから、ゲーム作曲家の地位が低いんじゃなくて、法務の方が知らないだけっていう。それを皆で勉強して浸透していけば、普通にいけると思うんですけどね。
-第一回ゲームミュージックコンポーザー座談会

僕も作曲家のほうでも使用できるようにしておいたほうが、安く制作してもらえて楽曲を使用した成果物の宣伝にもになり、両方の利益になると思うのですがいかがでしょうか。他の成果物とカブらないように、ロイヤリティフリーの音源として販売、配布しないように契約するなど、柔軟にしてもいいのかなと。

トラブル回避のために

もちろん契約書があればいいのですが、小規模なプロジェクトでは作るほうも読む方もしんどいのは確か。親告罪なので、作曲家側に使用用途、範囲をきちんと説明できていればほとんどの場合は大丈夫だと思います。約束はできませんが。

確認事項

買取ありの場合

・使用用途、範囲。それを超えた使用、加工の場合は確認。

買取なしの場合

・使用用途、範囲。それを超えた使用、加工の場合は確認。
・公表する時期の確認
・氏名の表示の確認

買取ありの場合、全てを買い取っているのかどうかが作曲者側にもよく伝わっておらず、最初に提示した範囲を超えて使用してしまってトラブルに、ということはありそうです。

買取なしの場合、使用範囲もそうですが、暗黙の了解で成り立っている人格権の「公表権」「氏名表示権」「同一性保持権」あたりは気をつけておきたい。買取なしのほうが曖昧なぶんトラブルになりやすそうではありますね。

いずれの場合も最初に提示した使用範囲を超えて使用する時は契約書を用意しておくとリスクを回避できると思います。

あと、契約書を作成してもよく読まない方もいるようなので、下記の事項がある場合、別途確認しておいたほうが確実かなと思われます。

・音色などを損なう大きな加工をする
・楽曲そのものを販売する
・他のコンテンツで使用する 

終わりに

買取のあり、なしは料金にも関係してきますし、作業にとりかかるまえに確実に決めておきたい事の1つです。契約書などを作成してトラブルのないようにしたいですね。

調べて僕も勉強になってしまいました。記事公開後も色々な方のご意見や実態も聞かせていただいて感謝です。

参考・出典

・著作者にはどんな権利がある? – 公益社団法人著作権情報センター

・オリジナル曲提供の際の印税率、買取金額について – OKWave

おまけ 現場の声

印税契約などでの管理は大変なため、そのかわりに買取の契約をする場合も多いようですね。


PCゲームの歌モノ作曲家、クサノユウキさんの現場