【第三回】 「サントラを聴いているだけでは劇伴はできない」テレビドラマ劇伴のつくりかた 【スキャット後藤、こおろぎ対談】

音楽でメシ

第二回に続き、スキャット後藤、こおろぎ対談、第三回です。

今回は「劇伴の音楽を作る時に考えること、実際の作り方」についてのお話です。

アニメと実写の劇伴は違う

スキャット後藤
まず、日常の普通のシーンで流れる曲を作らないと、と思って。

最初に作ったやつはマンガチックというか、カチカチな感じで、実写の雰囲気をちょっと壊してしまう感じで。

結局、最初にいろいろ作ったやつがほぼボツやったね。

こおろぎ
そうですね(笑)
スキャット後藤
そういうことがあって、今聴くと曲として、劇伴としてどうかな?っていうのがわかる気がするんじゃないかなと。
こおろぎ
それはすごくわかります、自分で。
スキャット後藤
実写に音をつけるっていうところってきっと難しいやろなと僕は思って。

特にゲームの音楽とかやっている人だと、アニメのほうがやりやすいんじゃないかな、

こおろぎ
アニメと実写の音のつけ方って違いますよね。
・アニメと実写に合う音は違う

実写のほうが映像の情報量が多いことと、会話や演出のテンポが違うこと。アニメは装飾、デフォルメが多いので、音楽もそういったものが合うということがあると思います。

監督の狙いを想像する

スキャット後藤
で、1回聴かせたら、ちょっとふざけすぎというか、ゆるすぎ、ってきたよね、監督から。

関くんの隣の、横井さんが真面目なので、もうちょっと真面目なほうがいいかなって言って、じゃあピアノかな、みたいな話をしたのかな。

で、ピアノの、「ちゃら ららん…」関くんと言えばあの曲。

こおろぎ
はい、やたら使いましたね(笑)
スキャット後藤
で、ピアノを作ったんやけども、たぶん真面目すぎたのかな。「メロディーをピアニカにしたらどうかな」みたいな提案が監督からあって。
こおろぎ
はい。そこら辺がMAの1週間前だったような気がします。(5日前でした)
スキャット後藤
そんな直前やったっけ?
こおろぎ
そんな直前でした(笑)
スキャット後藤
でもピアニカ吹いてきたの早かったよね?
こおろぎ
1日中、朝起きて寝るまでピアニカ吹いて仕上げました、その日は。
スキャット後藤
そのときに、メロディーをリコーダーにしたバージョンも作ってほしいって僕は多分お願いをしたと思うんだけど。

監督のイメージの中ではピアニカって思ってるんだけども、それが音楽的に正解かどうかわからないのと、「ピアニカって頼むってことは、こういう狙いのものがほしいんやろな」って僕の中で想像があって、それを落とし込むというか、こういうのもあったほうがいいんじゃないかっていうバリエーションかな。

監督の注文どおりメロディーだけをピアニカにするってことは、ピアノが残るっていうこと。

ピアノが残ると、ピアノって正装している感じというか、正しい感じがあるので、せっかくのピアニカが本当にゆるくならないから、ピアノないほうがいいんじゃないかと思って。

結局、やっぱりピアノがない、ピアニカだけのやつをよく使ったよね。

こおろぎ
相手の狙いを想像する能力が必要ということですね。
スキャット後藤
そう、仕事ではね。

今回の場合のように、打ち合わせをちゃんとしてなくって初めての監督で、どういうところを狙っているのかわからないときには、「ちょっと激しくする」とか、「ちょっと優しくする」みたいな、中間のデモを作って相手に想像させて「こっちがいい」っていう意見をもらう。

これは極端によっていると作り直さないといけなかったりするから、そのデモを出すときも僕はCMとかでも、提案というか、質問事項を音楽の中に入れておくの。

こおろぎ
ああ、音楽の中に入れるんですね。
スキャット後藤
あとは「これを出したときにこういう返しがくるやろうな」という想像で、何か違うものを準備してたりとか、そういうことはやるかな。
・相手の狙いを想像する能力が必要
・音楽の中に質問事項を入れておく

どの仕事もそうですが、相手の言葉と、本当に欲しい音が違っている場合があるんですよね。

「中間のデモ」という話がありましたが、後藤さんは1度作ったものが完全にボツにならないように、どういう注文がきても対応できるような素材を作っていくそうです。

そうやって、作業の手間を減らして効率をあげていく。

10分ものはつながった映像を見ないと作りづらい

スキャット後藤
1話、ドミノの話のとき、あれはどこが一番難しかった?
こおろぎ
ドミノの倒れ始めたところからです。
スキャット後藤
CM明けの最後の、花火のところまでってこと?あれ苦労した?
こおろぎ
あそこはものすごーく苦労しました。
スキャット後藤
結局、映像を見て作ることが多かった?
こおろぎ
多かったですねー
スキャット後藤
劇伴でも、1時間ものと違ってこういう10分ものって、曲がころころ変わるのと、特殊な演出があって、つながった映像を見ないと書けないところがあって。特にコメディものは。

ドミノは事前に用意をしておいて、曲をそこにあてるやり方ももちろんあったとは思うけど。

そういう曲だと、1分半ぐらいの中で感情の変化だったりとか仕掛けの変化によって曲の展開を変えるって難しいと思うの、多分。

事前に用意するものだと「Aメロ、Bメロ、サビ」みたいな流れの曲がどうしてもついてしまって、あんまりグッとこない。

テレビの放送を見ると、あそこのシーンの音楽が小っちゃかったからそれほど効果的にならなかったのが残念やけども。

あれも結局何回か、「メリハリがないからもうちょっと展開作って」とか、いろいろ指示したよね。

こおろぎ
あそこでだいぶ鍛えらえれた感じがします…(笑)
スキャット後藤
大きく修正してもらわないといけないと思って、デモが送られてきてすぐ聴いて、映像にはめて見てみて。

普通は「こういうふうにしてくれ」って文章に書いて説明するんやけども、もう実際にやったれと思って(笑)

それで僕はこおろぎ君の曲をもとに肉付けをしていったんやね。「こういうふうにメリハリをつけてくねん」っていうのを。

こおろぎ
そうやって実際映像についた音が返ってきて。
スキャット後藤
そうそう。

ドミノが一瞬途切れて、ボタっと下に落ちて「あっ」ていうところの緩急だったりとかをメールで書くと、「うわ、めちゃくちゃ大変な作業」って思うやろなと思ったから、「これぐらい簡単に効果的なことができる」っていうのを身をもって示すってことをやってみようと思って。

メールが送られてきて30分後とか、結構短い時間で送ったもんね、あれ。

こおろぎ
そうですね。「早すぎる!?」と思って(笑)
スキャット後藤
結局、僕が肉付けして編集したものがテレビで流れて。若干修正というか調整はしたけども。

やっぱり劇伴が初めてっていうのがあったから、しかも僕がお願いしているっていうのがあったから、1話のMAが終わるまでドキドキで、曲が合うのかな?大丈夫なのかな?とか。

事前に細かい監督チェックとかしてなかったから、MAで始めて見るような状態で音楽持っていったから。

2話、3話を1週間後に控えていたし、しかも2話、3話って台本見るとすごかったからこれは大変だぞと。

1話は最悪MAの1日2日前に突貫で僕が入って、っていうことをちょっと考えていたけど。まあ1話はちょろちょろっと僕の曲が流れているくらいにできて。

っていうのがね、まだそんなにたってないけど、えらい昔の話で(笑)

こおろぎ
そうですね。凝縮した時間を過ごしました…
・1時間ものと10分ものの劇伴の作り方は違う

短いドラマだと展開が早いので、映像に合わせたり、編集をしやすくしておく必要があります。

1時間ものは1つの展開の尺が長いので、ざっくりと変化をつけていけば、大体合うみたいですが。

僕が作った曲を後藤さんが肉付けと編集をして、1話のドミノシーンは共作という形になりました。

「緊張感を持続させたまま曲を展開させていく」というのも、この仕事をやっている間ずっと課題でした。

自分でメリハリがつけられなくて、ほんと悔しかったです。

微妙なニュアンスの曲が一番難しい

こおろぎ
後藤さんが仮で曲つけてくれたじゃないですか。映像に。

緊張したシーンに明るい曲がつけられてても「あ、こういう演出で正解なのかな?」って思って、明るく作っちゃって「それ違う」みたいな(笑)

スキャット後藤
そうね、ドンピシャなものをはめてたわけじゃないから。
こおろぎ
やっぱり「このシーンはどの曲をつけるのか」みたいなところが難しいです。
スキャット後藤
僕は一通り仕事をしてみて、空白の作り方が難しかったんじゃないかなっていう。盛り上げ方というか、すぐ繰り返さないで、とか、譜割りを変えて、みたいなのも。
こおろぎ
はい。空白の作り方は難しかったですね。

あと、感情の変化に対して音をつけるっていうのは今まであまりなかったので、その難しさと、さらにそこから展開していく難しさと、展開せずに音は変化させる難しさとか、いろんな難しさがあって。

スキャット後藤
あ、そうだね。みんな曲つけるのにやりやすいのって、話が進行していく感じ、例えば「甲子園に向かって頑張るぞ、おー」って言った瞬間から、頑張る感じの曲がだーんと流れて、練習風景がばんばんと出てきて、で、曲が鳴り終わったら地方大会の当日みたいな画のところで音楽が切れる、みたいな、

そういう長いところの、話がどんどん進んでいって映像がバババと変わっていくようなところはみんな作れるけども、なんでもない話のときに無音だと成立しないけど、とか、悲しいでもそこまで深刻ではなくて、ちょっとしんみりするぐらいの音楽が難しい。

こおろぎ
微妙なニュアンスが。
スキャット後藤
そういう微妙なニュアンスのところっていうのは、一緒に仕事する人はみんな悩むかな。

僕は一緒にいろんな人と仕事をしてて、J-Popを作っている人にお願いすると、バラードでの「メロディーに対してどうすると泣けるか」っていうコードのつけ方はすごく研究しているからうまいんやけども、そこまでいってほしくないときっていうのはあるわけで、そうなったときのコードのつけ方っていうのはすごく苦手やねんな。

そんな感じはしたかな。そこまでいかなくていいのに、って。

こおろぎ
そうですよね、歌モノを作っていると、どうやって展開させてグッとこさせるか、ということばっかり考えて、微妙な気持ちのときの音楽なんか作らないので。そこは難しかったです。
スキャット後藤
そういうのはあるね。同じメロディーでもコードのつけ方で印象が違ったりとか。

なんか悲しいでもいろんな段階を自分で設定して使いわけて1回作ってみるとか。なんかお気に入りにグラスを割っちゃったぐらいの悲しい感じとか。

こおろぎ
そうですね。感情に紐づけてやるといいですよね。
スキャット後藤
誰か親しい人が亡くなったとか、悲しいでも全然違うわけで。帰ってきたら洗濯物が濡れていた悲しみとか。
こおろぎ
何種類も悲しみがあって。
スキャット後藤
そうそう、悲しみの度合いっていうのを使い分けれるようになったりすると面白いかな。

あとは、その場で足踏みをするぐらいの曲と、タッタッタって気分よく歩いて行く、話が進んでいく感じの2種類をちゃんと使い分けるとか。ベースの音を入れると途端に話が進んじゃう。

そういうときってあんまりベースを入れないほうがいいとか、感情入れないようにウワモノを、とか、あと僕が意識するのはリズムで押すのか、ここはメロディーがあったほうがいけるとかっていうのはすごく感じるかな。

メロディーが入っていると話が追いやすくなるものって結構あって、そういうこととか考えるかな。

・うまく空白を作る
・繰り返さない、譜割りを変える作り方
・感情の変化に対して音をつける作り方
・感情の度合いを使い分けられるようにする
・その場で足踏みをするぐらいの曲と、話が進んでいく感じの2種類を使い分ける
・メロディーが入っていると話が追いやすくなる

具体的な音楽作り方の話ですね。歌モノやゲームだとやらない作りかたが多かった。

空白を作るのは特に難しくて、どうしても音を詰めすぎてしまって。

うまく空白を作ってやると、セリフの呼吸に合ったり、カブらなかったり、編集しやすい曲になるんですよね。

あとは、前後の流れを考えて作る、というのも。考えること多すぎないですか…

サントラを聴いているだけでは劇伴はできない

スキャット後藤
関くんの仕事をしながらよく話していたのが、いわゆる「サントラ」、サウンドトラックの話。

劇伴をやりたい人が「こういうの作りたい」っていうのって、映画でも1時間半とか2時間あるうちのすごく一番いいシーン、ドラマの一番いいシーンの音楽のイメージしかないのね。

何気ない会話のときの曲、関くんで言うと最初の、「関くんが隣の席でいろいろ変なことをしてる」みたいなところにつくような曲って、ちょっと作り方が違うわけよ。

僕は何回もこおろぎ君の曲が上がってきたのを聴いて、音数が多すぎるとか、間合いがなさすぎるっていうのを何回も言ってたけども。

こおろぎ
「呼吸が」っていう。
スキャット後藤
そう。映像の雰囲気を壊しちゃうというか。どうしてもみんなそうなっちゃうみたいで。

ピアノで1音、鳴っているだけでも、映像につくとそれで十分っていうか意味がちゃんと出る。緊張感が出たりとか、悲しい雰囲気になったり、ってなるわけで。

だけどみんなピアノの曲っていうと、感情の入った抒情的な曲を作る。それをすると台無しになっちゃうっていう。

こおろぎ
CDでしか聴かなかったりするんで、どの場面についているかがわかってなかったり。
スキャット後藤
そうだね。CDなんか、曲として成立しているようなものばっかりだから。こういう短編の短いものってあんまりそういう曲がつくシーンがないよね。
音と映像と合わせて1つの作品になるよう、音楽が語りすぎないよう、
映像やセリフとの呼吸と合うように作るのが劇伴。

サントラだけで聴いてると、音楽だけで成り立ってる、かっこいいものに耳がいってしまう。
映像込みで音楽を聴かないと劇伴の参考にはならない。

関連リンク

【第一回】 テレビドラマ劇伴の仕事をもらうまでの流れ
【第二回】 テレビドラマ劇伴のスケジュールについて
【第四回】 「漫才、コント、テレビを見てきたことが活きている」テレビドラマ劇伴の上達方法
【第五回】 テレビドラマ劇伴のMA、監督の違い、音楽学校について

プロフィール

後藤アイコン_150 

スキャット後藤

 

へなちょこ作曲家。京都市出身。かわいくてたのしくてちょっといじわるな音楽をつくってます。TV :「となりの関くんとるみちゃんの事象」「太鼓持ちの達人」「俺のダンディズム」「殺しの女王蜂」「A-Studio」「きらきらアフロ」Game :「シバ・カーリーの伝説」「POSSESSION MAGENTA」

■ツイッター @scatgoto
■Webサイト http://www.cutecool.jp/

created by Rinker
アニプレックス
¥3,652 (2018/08/15 14:46:56時点 Amazon調べ-詳細)