第二回に続き、スキャット後藤、こおろぎ対談、第三回です。
今回は「劇伴の音楽を作る時に考えること、実際の作り方」についてのお話です。
アニメと実写の劇伴は違う
特にゲームの音楽とかやっている人だと、アニメのほうがやりやすいんじゃないかな、
実写のほうが映像の情報量が多いことと、会話や演出のテンポが違うこと。アニメは装飾、デフォルメが多いので、音楽もそういったものが合うということがあると思います。
監督の狙いを想像する
関くんの隣の、横井さんが真面目なので、もうちょっと真面目なほうがいいかなって言って、じゃあピアノかな、みたいな話をしたのかな。
で、ピアノの、「ちゃら ららん…」関くんと言えばあの曲。
監督のイメージの中ではピアニカって思ってるんだけども、それが音楽的に正解かどうかわからないのと、「ピアニカって頼むってことは、こういう狙いのものがほしいんやろな」って僕の中で想像があって、それを落とし込むというか、こういうのもあったほうがいいんじゃないかっていうバリエーションかな。
監督の注文どおりメロディーだけをピアニカにするってことは、ピアノが残るっていうこと。
ピアノが残ると、ピアノって正装している感じというか、正しい感じがあるので、せっかくのピアニカが本当にゆるくならないから、ピアノないほうがいいんじゃないかと思って。
結局、やっぱりピアノがない、ピアニカだけのやつをよく使ったよね。
今回の場合のように、打ち合わせをちゃんとしてなくって初めての監督で、どういうところを狙っているのかわからないときには、「ちょっと激しくする」とか、「ちょっと優しくする」みたいな、中間のデモを作って相手に想像させて「こっちがいい」っていう意見をもらう。
これは極端によっていると作り直さないといけなかったりするから、そのデモを出すときも僕はCMとかでも、提案というか、質問事項を音楽の中に入れておくの。
・音楽の中に質問事項を入れておく
どの仕事もそうですが、相手の言葉と、本当に欲しい音が違っている場合があるんですよね。
「中間のデモ」という話がありましたが、後藤さんは1度作ったものが完全にボツにならないように、どういう注文がきても対応できるような素材を作っていくそうです。
そうやって、作業の手間を減らして効率をあげていく。
10分ものはつながった映像を見ないと作りづらい
ドミノは事前に用意をしておいて、曲をそこにあてるやり方ももちろんあったとは思うけど。
そういう曲だと、1分半ぐらいの中で感情の変化だったりとか仕掛けの変化によって曲の展開を変えるって難しいと思うの、多分。
事前に用意するものだと「Aメロ、Bメロ、サビ」みたいな流れの曲がどうしてもついてしまって、あんまりグッとこない。
テレビの放送を見ると、あそこのシーンの音楽が小っちゃかったからそれほど効果的にならなかったのが残念やけども。
あれも結局何回か、「メリハリがないからもうちょっと展開作って」とか、いろいろ指示したよね。
普通は「こういうふうにしてくれ」って文章に書いて説明するんやけども、もう実際にやったれと思って(笑)
それで僕はこおろぎ君の曲をもとに肉付けをしていったんやね。「こういうふうにメリハリをつけてくねん」っていうのを。
ドミノが一瞬途切れて、ボタっと下に落ちて「あっ」ていうところの緩急だったりとかをメールで書くと、「うわ、めちゃくちゃ大変な作業」って思うやろなと思ったから、「これぐらい簡単に効果的なことができる」っていうのを身をもって示すってことをやってみようと思って。
メールが送られてきて30分後とか、結構短い時間で送ったもんね、あれ。
やっぱり劇伴が初めてっていうのがあったから、しかも僕がお願いしているっていうのがあったから、1話のMAが終わるまでドキドキで、曲が合うのかな?大丈夫なのかな?とか。
事前に細かい監督チェックとかしてなかったから、MAで始めて見るような状態で音楽持っていったから。
2話、3話を1週間後に控えていたし、しかも2話、3話って台本見るとすごかったからこれは大変だぞと。
1話は最悪MAの1日2日前に突貫で僕が入って、っていうことをちょっと考えていたけど。まあ1話はちょろちょろっと僕の曲が流れているくらいにできて。
っていうのがね、まだそんなにたってないけど、えらい昔の話で(笑)
短いドラマだと展開が早いので、映像に合わせたり、編集をしやすくしておく必要があります。
1時間ものは1つの展開の尺が長いので、ざっくりと変化をつけていけば、大体合うみたいですが。
僕が作った曲を後藤さんが肉付けと編集をして、1話のドミノシーンは共作という形になりました。
「緊張感を持続させたまま曲を展開させていく」というのも、この仕事をやっている間ずっと課題でした。
自分でメリハリがつけられなくて、ほんと悔しかったです。
微妙なニュアンスの曲が一番難しい
緊張したシーンに明るい曲がつけられてても「あ、こういう演出で正解なのかな?」って思って、明るく作っちゃって「それ違う」みたいな(笑)
あと、感情の変化に対して音をつけるっていうのは今まであまりなかったので、その難しさと、さらにそこから展開していく難しさと、展開せずに音は変化させる難しさとか、いろんな難しさがあって。
そういう長いところの、話がどんどん進んでいって映像がバババと変わっていくようなところはみんな作れるけども、なんでもない話のときに無音だと成立しないけど、とか、悲しいでもそこまで深刻ではなくて、ちょっとしんみりするぐらいの音楽が難しい。
僕は一緒にいろんな人と仕事をしてて、J-Popを作っている人にお願いすると、バラードでの「メロディーに対してどうすると泣けるか」っていうコードのつけ方はすごく研究しているからうまいんやけども、そこまでいってほしくないときっていうのはあるわけで、そうなったときのコードのつけ方っていうのはすごく苦手やねんな。
そんな感じはしたかな。そこまでいかなくていいのに、って。
なんか悲しいでもいろんな段階を自分で設定して使いわけて1回作ってみるとか。なんかお気に入りにグラスを割っちゃったぐらいの悲しい感じとか。
あとは、その場で足踏みをするぐらいの曲と、タッタッタって気分よく歩いて行く、話が進んでいく感じの2種類をちゃんと使い分けるとか。ベースの音を入れると途端に話が進んじゃう。
そういうときってあんまりベースを入れないほうがいいとか、感情入れないようにウワモノを、とか、あと僕が意識するのはリズムで押すのか、ここはメロディーがあったほうがいけるとかっていうのはすごく感じるかな。
メロディーが入っていると話が追いやすくなるものって結構あって、そういうこととか考えるかな。
・繰り返さない、譜割りを変える作り方
・感情の変化に対して音をつける作り方
・感情の度合いを使い分けられるようにする
・その場で足踏みをするぐらいの曲と、話が進んでいく感じの2種類を使い分ける
・メロディーが入っていると話が追いやすくなる
具体的な音楽作り方の話ですね。歌モノやゲームだとやらない作りかたが多かった。
空白を作るのは特に難しくて、どうしても音を詰めすぎてしまって。
うまく空白を作ってやると、セリフの呼吸に合ったり、カブらなかったり、編集しやすい曲になるんですよね。
あとは、前後の流れを考えて作る、というのも。考えること多すぎないですか…
サントラを聴いているだけでは劇伴はできない
劇伴をやりたい人が「こういうの作りたい」っていうのって、映画でも1時間半とか2時間あるうちのすごく一番いいシーン、ドラマの一番いいシーンの音楽のイメージしかないのね。
何気ない会話のときの曲、関くんで言うと最初の、「関くんが隣の席でいろいろ変なことをしてる」みたいなところにつくような曲って、ちょっと作り方が違うわけよ。
僕は何回もこおろぎ君の曲が上がってきたのを聴いて、音数が多すぎるとか、間合いがなさすぎるっていうのを何回も言ってたけども。
ピアノで1音、鳴っているだけでも、映像につくとそれで十分っていうか意味がちゃんと出る。緊張感が出たりとか、悲しい雰囲気になったり、ってなるわけで。
だけどみんなピアノの曲っていうと、感情の入った抒情的な曲を作る。それをすると台無しになっちゃうっていう。
映像やセリフとの呼吸と合うように作るのが劇伴。
サントラだけで聴いてると、音楽だけで成り立ってる、かっこいいものに耳がいってしまう。
映像込みで音楽を聴かないと劇伴の参考にはならない。
関連リンク
【第一回】 テレビドラマ劇伴の仕事をもらうまでの流れ
【第二回】 テレビドラマ劇伴のスケジュールについて
【第四回】 「漫才、コント、テレビを見てきたことが活きている」テレビドラマ劇伴の上達方法
【第五回】 テレビドラマ劇伴のMA、監督の違い、音楽学校について
プロフィール
スキャット後藤
へなちょこ作曲家。京都市出身。かわいくてたのしくてちょっといじわるな音楽をつくってます。TV :「となりの関くんとるみちゃんの事象」「太鼓持ちの達人」「俺のダンディズム」「殺しの女王蜂」「A-Studio」「きらきらアフロ」Game :「シバ・カーリーの伝説」「POSSESSION MAGENTA」
■ツイッター @scatgoto
■Webサイト http://www.cutecool.jp/
最初に作ったやつはマンガチックというか、カチカチな感じで、実写の雰囲気をちょっと壊してしまう感じで。
結局、最初にいろいろ作ったやつがほぼボツやったね。