バラードのリバーブって、かけ過ぎちゃうとお風呂みたいになるし、少ないと物足りないし、難しいんですよね。今回はバラードのリバーブとディレイを埋もれずに深く付ける方法について聞きました。
前回、前前回に続き、エンジニアの上原翔(@upopo_sho )さんに寄稿していただきました。
君彩りLOVER「雫の波紋」のボーカルで解説していただきます。
下のプレイヤーの1曲目です。
目次
1.プリディレイを40msec~60msecに設定
2.EQでハイカットを入れる
リバーブとディレイを組み合わせて残響感を調整していく
リバーブ
僕はあまり細かくパラメータをいじる事はないんですが、リバーブを使う際に重要なポイントが2つあります。
1.プリディレイを40msec~60msecに設定する
2.EQでハイカットを入れる
リバーブはLexicon PCM Native ReverbのHallを使いました。
1.プリディレイを40msec~60msecに設定
歌にリバーブを使う時はほぼこのプリディレイ(predelay、左中央)を40msec~60msecあたりに設定します。プリディレイは原音に対してどのくらい送らせて残響を付けるかというパラメーターなのですが、これを0msecにすると原音が鳴ると同時に残響が発生します。
歌の場合でそうなってしまうと、歌が残響に埋もれてしまいます。だからと言ってプリディレイを遅くし過ぎると残響の付き方が不自然になってしまいます。プリディレイ40msec~60msecというのがおおよそ歌の原音もしっかり聞こえつつ、残響も自然に付くというところですね。
2.EQでハイカットを入れる
リバーブを使う時の最大の注意点として、ハイ成分をシャリシャリにしないという事です。リバーブはハイ成分が目立ってしまいがちです。ハイ成分が出過ぎると耳障りな残響になってしまいます。
デフォルトの状態でもハイカットはされてるんですが、僕の場合はさらに別にEQを使って下記のようにハイカットします。
どこまでハイカットするかは、リバーブの掛け具合と曲との兼ね合いで決めます。削り過ぎてリバーブ成分がなくならないように注意して設定します。
リバーブの次はディレイです。
ステレオとモノラル、2種類のディレイ
ステレオのディレイは、左右に残響を伸ばすイメージ、モノラルのディレイは奥側に残響を伸ばすイメージ
リバーブによって全体の広がりは作れますが、深く掛け過ぎると歌が後ろに引っ込んでしまうので、より長く残響を作るにはディレイを使います。
ディレイを使う事によって、歌の芯を失わずに長く残響を付ける事が出来ます。
今回使ったディレイは2種類です。
ステレオのディレイと、モノラルのディレイを使っています。
ステレオのディレイは、左右に残響を伸ばすイメージ、モノラルのディレイは奥側に残響を伸ばすイメージで使用しています。
ステレオのディレイは全体に広げるという意味でリバーブと似た効果もありますが、残響を長く付ける
という意味ではモノラルのディレイより薄れます。モノラルのディレイだと、より残響が目立つので、長く残響を付けるのに適していますが、広がりは出ません。
ディレイを使う場合は、ステレオなのか、モノラルなのか、もしくは両方使うのかをケースバイケースで使い分けます。
そして必ずリバーブやディレイを使う時はセンドで使うようにします。インサートには基本入れません。
なぜかと言うと、インサートで使うと残響音と原音のパーセンテージで掛ける量を調整しますが、これだと、残響音だけ減らしたいという時に原音のボリュームも変わってしまうので、歌の音量を下げたくないけど、残響だけ減らしたいという時に対応出来ません。
残響を付ける時は、必ずこういった常に残響だけ上げ下げ出来る状態にしておきます。
最後に、残響は場所によっても変化させるという事です。
Aなどの音数が少ない所は残響が聞こえやすく、サビなどの音数が多い所は残響が聞こえにくくなります。バランスにしてもそうですが、場所によってある程度一定の残響感がある事が基本です。
そういった事も踏まえつつ、今回の雫の波紋では、サビに入った所で、モノラルのディレイとステレオのディレイを上げています。上記の残響感を一定にするといった意味もありますが、今回はよりディレイ感を上げてサビに入った所で広がりを付ける目的でもあります。
バラードなどでは、サビに入った所で広がりを作った方がよりドラマチックになるパターンが多いので、今回もそのようにしています。
下記のエディット画面を見ると、センド2がステレオディレイ、センド4がモノラルディレイです。ステレオディレイはサビで6dB上げ、モノラルディレイは2dB上げています。
おわりに
今回はバラード曲での残響の付け方の一例でしたが、残響は曲やアーティストの好みによって大きく変わってくるので、臨機応変に対応していく事が大事ですね。
改めて今回の曲、君彩りLOVER「雫の波紋」。下のプレイヤーの1曲目です。
著者紹介
上原 翔
Recording / Mix / Mastering Engineer
1982/7/13 A型 滋賀県出身
・経歴
2004年、レコーディングエンジニア目指して上京。
Azabu O Studio(exオンエアー麻布スタジオ)で電話番&車庫入れのアルバイトを始める。
2005年、HAL Studioに入社し、DJ KrushやSPANOVAから、Superflyや西野カナなど、
幅広いジャンルのセッションワークに数多く関わり、エンジニアリングを学ぶ。
2012年、HAL Studioを退社。
2013年、フリーランスとなり活動を始める。
2013年に手掛けたfox capture plan「BRIDGE」では、
第6回CDショップ大賞2014ジャズ部門賞、
JAZZ JAPAN AWARD 2013アルバム・オブ・ザ・イヤー ニュースター部門を受賞している。
2014年、自身のクリエイター作品として、CCライセンス表示により「Once and Again feat. Chihiro」を発表する。
■上原さんへの依頼、お問い合わせはこちらから↓
http://shouehara.wordpress.com/contact/
「雫の波紋」のようなバラード曲だと、重要になってくるのは残響感です。リバーブやディレイの具合ですね。
バラード曲だと、残響を深くする場合が多いのですが、残響を深くすればするほど歌も奥に引っ込んでいきます。ただ、歌というのは一番前にする事が基本なので、埋もれずに深く残響を付ける方法を解説したいと思います。
歌に残響を付ける時の基本として、歌の音の芯を無くさないという事です。リバーブを深く掛け過ぎて、歌がぼやけてしまっては意味がありません。もちろんそういった効果を狙う時もありますが。
バラードの場合は、リバーブとディレイを組み合わせて残響感を調整していく事が多いです。
リバーブだけで残響を深くしていくとリバーブが広がりすぎてどんどん歌がぼけてきます。なので、歌がぼけないギリギリまでリバーブを掛けますが、それだと残響の長さが足りないので、その分をディレイで残響を長くするという考え方です。