プラグインからオートメーションまで!歌のミックス方法をプロのエンジニアさんに詳しく聞きました。

テクニック

歌のミックス方法をエンジニア上原翔さん(@upopo_sho )に寄稿していただきました。

解説する曲はこちら。君彩りLOVER「螺旋状のスクリーン」。ポップでやや速めの曲。


上原翔
こんにちは、上原翔です。

はじめに、作業の順番なんですが、コンプ系と残響系はまず先に入れてしまいます。それでオケも含めて全体のバランスとりつつ、途中でEQとオートメーションをほぼ同時作業でやってます。

目次

■プラグイン
・ダイナミクス、EQ
・リバーブ

■オートメーション
・ボリューム
・リバーブ、ダブラーの量
・EQ、3.5kHz

■まとめ

プラグイン

インサート

・MV2(Waves)

・Renaissance EQ(Waves)

・Dynamics(Nuendo標準)

・DeEsser(Waves)

センド

・Lexicon PCM Native Reverb Hall(Lexicon)
・Delay(Nuendo標準)
・Doubler(Waves)

ダイナミクス、EQ

歌が張ったところだけ、急激にコンプが掛かって押さえつけられたようになるのはNG

まず実際に使ったプラグインと設定を紹介します。

螺旋歌_1

MV2のLOW LEVELというのが小さい部分を持ち上げてくれるパラメータです。HIGH LEVELはほぼ通常のコンプと同じ動きをします。僕はだいたいこれくらいの設定が多いです。

これでも歌のボリュームが均一にならないところは先ほどのように手動でオートメーションを書いていきます。

歌にコンプを掛ける時の一つの基準として、コンプ臭くしないという事です。歌が張ったところだけ、急激にコンプが掛かって押さえつけられたようになるのはNGです。あくまで、伸びやかな部分は伸びやかに、小さい所は少し持ち上げるというような事を念頭に置いて設定します。

全帯域がしっかり出てこそ歌は前に出てきます

螺旋歌_2

歌のEQは、基本的にどの帯域もフラットな感じになるように設定します。歌のEQというのは結構大事です。よくありがちなのが、音の抜けばかり気にしてしまって、高域や中高域ばかりを上げてしまう事です。でもあくまで、全帯域がしっかり出てこそ歌は前に出てきます。

あと、僕は各帯域のゲインを2dB上げてしまうような場面に出くわすと、歌でない他の部分を疑います。オケのバランスが悪かったりすると過剰なEQになりがちです。オケのバランスを見直していけば、大抵の場合ゲインを2dB以上上げ下げする必要はない場合がほとんどです。

たまに、録り音自体にピーク成分が多く録れていたり、不足している帯域があるとゲインを大目に上げ下げしないとダメなケースもあります。

歌は細い音にしない事というのが命題です。

螺旋歌_3

このコンプはEQで多少上げ下げした部分を慣らすという意味でうっすら掛けています。

螺旋歌_4

ディエッサーは「さしすせそ」音の出っ張りを抑える為です。歌の周波数的な意味で聞こえ方を一定にするという部分で重要なエフェクターです。

リバーブ

リバーブとディレイの関係は密接

次は残響系のエフェクターです。

螺旋歌_5

歌などのメインのものによく使うリバーブです。このリバーブをオケに使う事はほとんどありません。これは、オートメーション画面の2段目になります。サビに入るとリバーブをオートメーションで上げています。

螺旋歌_6

こちらはディレイです。歌の残響に関して、リバーブとディレイの関係は密接です。つまり、左右の広がりに関しては主にリバーブで作り、残響の残り具合はディレイで調整していきます。もし、残響の残りが足りないからと言って、リバーブだけを上げていくと歌が広がり過ぎると同時に、どんどん奥に引っ込んでいきます。

ディレイは歌を奥に引っ込ませず残響だけを足していけますが、反復が残り過ぎても不自然です。このあたりはリバーブとディレイをうまく掛け合わせて広がりと残響を調整します。

螺旋歌_7

こちらはショートディレイに近いもので、左右に広げたり、ほんの少しピッチをずらして声に倍音成分を足す目的で使っています。

こういったプラグインを使うか使わないかはケースバイケースですが、声に存在感を出したい時などには使います。

これはオートメーション画面での3段目で、サビでより声に存在感を作りたかったので、サビ部分でダブリングの量を上げています。

オートメーション

ムラなく、そしてニュアンスをつける

歌にオートメーションを書く必要性というのは大きく分けて2通りです。

1.どの場面でも一定にムラなく歌が聞こえるようにする。

2.歌のニュアンスをつける。

螺旋状のスクリーンで実際に書いたオートメーションは下の通り。

螺旋歌_8

上から順に

・ボリューム
・リバーブ量
・ダブラー量(声を左右にディレイで広げるエフェクト)
・EQで3.5kHzの下げ幅

この4つのパラメーターのオートメーションを書いています。

これらは全て上記での1と2での考え方に基づいてオートメーションを書いています。

1つずつ解説していきますね。

ボリューム

歌のボリュームを書く目的は、大きく分けて2種類です。

・サビなどオケのボリュームが大きくなった時に歌が埋もれないようにする。

・箇所箇所で小さく歌っているような聞こえにくいところのボリュームを上げる。

色々上下して分かりにくいんですが、1Cや2Cなどのサビ部分では全体的にボリュームが上がっています。

螺旋歌_9

Bからサビに入る所は、1.2dBオートメーションでボリュームを上げています。サビになると当然オケの音数や音量などが増えて、AやBなどと同じボリュームだとどうしても埋もれがちです。サビになると声量は出ますが、それでもオケも含めてサビで盛り上げようとするとボリュームを書かざるを得ません。

細かく箇所箇所でボリュームのオートメーションが上下しているところがあります。それは、歌っている時のニュアンスや音程が低いところなどの声量が下がっている部分が出てきます。

そういった部分では、ちゃんと歌詞が聞き取れるようにとボリューム的なバラつきが出ないように細かく上げます。逆に瞬間的に大きくなりすぎているところはボリュームを下げます。

歌だけに限りませんが、常に一定の量で歌が聞こえてるというのが重要です。ですが、あまりに一定にし過ぎるとただのニュアンスがない歌になるので、その辺りは聞きながらうまく調整していきます。

リバーブ、ダブラーの量

聞こえ方を一定に

螺旋歌_10

AやBなどの比較的静かなところでは、歌に掛かってるリバーブなどはちゃんと聞こえます。サビなどのオケが盛り上がるとその分リバーブが埋もれてしまうので、聴感上リバーブの聞こえ方を一定にするという考え方です。もしくは、あえてサビに入ると聴感上の量を多くして広がりを持たせるという事もします。

今回の曲に関しては、リバーブに関しては、どの場面でも一定にリバーブ成分が聞こえるようにするという事。ダブラーに関しては、サビに入ったら声に広がりを持たせるという意味合いでサビに入った時にセンドの量を上げています。

EQ、3.5kHz

硬い成分を下げる

螺旋歌_11

これはかなり見落としがちな部分だと思います。これはEQで3.5kHz部分のゲインを箇所箇所で下げています。これも歌を一定に聞こえるようにするという考えてですが、こちらは周波数的に一定にするという意味でオートメーションを書いています。

3.5kHzのゲインを下げている部分は、母音が「い」、「え」などに多く含まれる硬い成分を下げています。歌の録り方や、そのアーティストさんによって変わってきますが、母音が「い」、「え」の時は急に中高域などの成分が出て、周波数的に出っ張ってしまいます。

これも歌が凸凹してしまう原因の1つです。こういった事が多くあるとまとまりの無い歌になってしまうのです。

なので、そういった母音が「い」、「え」の部分だけを瞬間的に下げて歌を慣らしていきます。下げる基準としては、聴感上おおよそ他の母音の部分と同じくらいの量感にしていきます。

別で解説しますが、「さしすせそ」音に関しても5kHz高域成分が多く含まれているので、ディエッサーという「さしすせそ」音を抑えるエフェクターを使います。

ディエッサーで母音が「い」、「え」の部分で引っかかるようにすると、他の母音の部分でもディエッサーが作動してしまうので、うまくいかない場合が多いです。なので、僕の場合は手動で下げていきます。

まとめ

こういったポップス系での歌はオケに負けない存在感を出しつつ、オケと馴染ませるというのが重要な課題です。バランスとしては、楽曲によっても変わってきますが、全てのオケの音より、常に1歩前に居続けるというのが基本的なパターンです。

メインの歌が良くないと全てが良くなくなってしまうので、歌の音作りやオートメーションを含めたバランスはとても重要です。

こおろぎの感想

今回は歌の処理に絞って書いていただきました。

すでに出来ているオケに歌をミックスする場合にも応用できますね。

ミックスは流れが大事なんだなと。上原さんのミックス、歌がグッと前に出つつ聴きやすいんですよね。僕も目指してみます。

改めて楽曲はこちら。君彩りLOVERで「螺旋状のスクリーン」。

著者紹介

雫全体_14

上原 翔 

Recording / Mix / Mastering Engineer
1982/7/13 A型 滋賀県出身

・経歴

2004年、レコーディングエンジニア目指して上京。
Azabu O Studio(exオンエアー麻布スタジオ)で電話番&車庫入れのアルバイトを始める。
2005年、HAL Studioに入社し、DJ KrushやSPANOVAから、Superflyや西野カナなど、
幅広いジャンルのセッションワークに数多く関わり、エンジニアリングを学ぶ。
2012年、HAL Studioを退社。
2013年、フリーランスとなり活動を始める。
2013年に手掛けたfox capture plan「BRIDGE」では、
第6回CDショップ大賞2014ジャズ部門賞、
JAZZ JAPAN AWARD 2013アルバム・オブ・ザ・イヤー ニュースター部門を受賞している。

2014年、自身のクリエイター作品として、CCライセンス表示により「Once and Again feat. Chihiro」を発表する。

■上原さんへの依頼、お問い合わせはこちらから↓

http://shouehara.wordpress.com/contact/

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