こおろぎです。
打ち込みで曲を作るときに、どのドラムキットを選べばいいんだろう?って思いませんか。
最近のバーチャル・インストゥルメンツ(ソフト音源)は選べるキットの名前も具体的になってきて、数も増えて、ますますわからない。
ドラマーはどういう考え方で音選び、音作りをしているのか。
今回は、プロドラマーの神田リョウ氏(@tatakiyagroove )にそういったお話を伺ってみました。
ざっくり
・厳密に決まった選び方はない
・キックとスネアから決めていく
・分離感を出すか、まとまりを出すか
・ヘッドがクリアかコーテッドか
・タイコの胴が木か、金属か
・スネアのキーを合わせてみる
・余韻の長さを調節する
・細かいフレージングを聴かせたい時はサステインの短いシンバルを選ぶ
キックとスネアから決めていく
それに合わせて タムをどうするか。
あとは、曲の重心がどれくらい下にあるのかとか、上にあるのか。
ジャズだったら、わりと高めになる、とか。ロックだったら低めになるとか。
曲自体の重心がどの位置かでタイコ全体のピッチ感も変わってくる。
分離感を出すか、まとまりを出すか
超ハイファイな感じで、分離がいいタイプのセットと、
ヴィンテージよりな「全体でドン!」みたいな、トータル的にまとまる感じのセット
っていう2種類で分けてて、演奏する曲のイメージがどっちのほうが近いかで選びますね。
ヘッドがクリアかコーテッドか
大体クリアかコーテッドの2種類。
コーテッドだと丸みが音に出るというか、アタックの立ち上がりよりもボリューム感というか…まろやかになるんですよね。あったかい音に作りやすい。
クリアとコーテッドの比較動画
ただ、クリアのツルツルのヘッドで「ブラシお願いします」っていうのは、物理的にザラザラしてないと反応しないから、それは無理だよね、というのはあるけど。
タイコは木か金属か
高めに貼っても、角が丸いというか。カーンっていうけど金属ほど耳につくような成分が少ないというか。
太くてあったかいイメージ。木のぬくもりって言うじゃないですか。そういう。
木のスネア参考
金属がほしいなっていう時もまれにあるんですけど。
金属のほうが明るい感じなんですよね。どっちかっていうと。
例えば、ラディック(LUDWIG)のメタルスネアって呼ばれるやつはパリッとしてますね。LM400とか402とか、その筋のスタンダードがあるんですよ。
金属は女の子のボーカルにハマったりもするんですよね。
あと、低めのピッチにしたとき、立ち上がりが木よりも金属のほうが早かったりっていう傾向にはあったりします。
逆に木を高めのピッチにしたときは「カーン」っていってもそこまでうるさくならないというか、アンサンブルの中にちゃんと溶けこむイメージですね。
ただ、金属の中でもめっちゃ強い金属とか、めっちゃ強い木とか、めっちゃ柔らかい金属とか、めっちゃ柔らかい木みたいなんがあって色々ですけどね。
尖がった音にしたかったら金属選ぶっていう定石はあるんですけど、あとは好みっすね。
プレイヤー目線でいうと、僕はむしろつよい木が好きで。木なのに「パコーン」みたいな。金属みたいな音がする木が。
金属に関しては、金属なのに甘い感じの音が鳴る、とかそういうのが好き。
スネアのキーを合わせてみる
聞きやすくするって言う意味だったら、その曲のキーにスネアのキーを合わせる。
例えば曲がFだったらスネアをFにする。タムはそれに合わせて3度差ぐらいにしていく。
ただ、必ずしもそのキーにハメなきゃいけないっていうもんでもないし、実際のところ、バラついてる方が3次元的にバランスが取れる、みたいなことがあったりするんですけど。
キックはあえてキーとは無関係に作った方がハマりやすいことも多いです。ジャズだと、キックは“タムの延長”という解釈もあって音程を気にしたりすることもあります。
余韻の長さを調節する
アタックが見えないと音符が繋がって聴こえちゃうから。
曲のテンポの四分音符、もしくは二分音符くらいでスネアが鳴っているようにします。
キックとスネアで「ド、ターン、ド、ターン」って歌いたいか「ドンタ、ドンタ」で歌いたいかで伝わるニュアンスって違うから。
作られた場所で選んでみる
そういうのがイメージに近いものになりやすいかもしれないっすね。
ドラムの作りはそういうのが顕著に出てるから。
見た目の印象で選んでみる
ジャズの現場にフライングVを持って行かないじゃないですか?
パッと見の印象っていうのは結構反映されてて。
選び方がわかんなかったらドラムの写真を指針にするのはアリだと思いますね。
シンバル編
もう一個キャラクターをわけるとしたらブリリアントかドライか、っていう2種類。
シャーンってやったら平気で10秒くらい鳴ってたりする。実はそんだけのサステインっていらなかったりするんですよ。
ドライなほうが奥行き感が出たり、他の音がちゃんと立つから、残響の短い「シュン」「カシャン」みたいな音のほうが実はいいんじゃないか、とかありますね。
今はドラム界でゴスペルブーム感があって。ゴスペルの人たちって凄いフレーズをやるんですよ。細かくて早くて…特に黒人系のゴスペル。
ああいうフレーズをやる人たちはなぜかドライ系を好む人が多かったりとか。
ドライじゃなくても、サステインの短い音作りにしてあったりとか。一個一個フレーズが立つように。
シンバルもタイコと同じでリリースの長さを考えて選ぶと。
あとは、明るい感じの曲調にしたければキラキラしたシンバルを選ぶし、ちょっと落ちついてたり、ダークめな曲だと、あんまり響かなかったり、抑え目なシンバル選びになるかなって感じですね。
大きいほうがサステインが長い。あとは立ち上がりが遅めの傾向になる。
あとは、厚みによって変わるんですよね。厚くなればなるほど、生だと音量も上がるし、固くなる。
ライドのほうが厚いんですよね。クラッシュよりも。厚いぶん、ローもピング音(チンチンする音)も出やすいんですよ。
高い帯域の楽器とはいえローも出てて、それがゴーンって鳴る。分厚いほどその「ゴーン」の部分が出やすいんですよ。
ライドでゴーーーンっていくのか、クラッシュでシャーーンって上のほうで響いてるのか。
それだけでもけっこう違うし。
金物ってタッチなんですよね。スティックがどう当たるかでそのキャラが全然変わるから。
ライドをガシガシいくのとクラッシュをガンガンいくのとでは音の広がり方が違ったりとか。
ライブは、スネアとかタイコはあるものを使って、シンバルだけ持っていくとか結構ありますね。ジャズの人とか多いかもしれないけど。
やっぱ、チューニングができないから。
チューニングができないのにその人のカラーが出るんですよ。だから持っていく人が多い。
時代のトレンドもわりと反映されるんですよね。プレイスタイルとか。
不可能な音が出せることが打ち込みのいいところ
それを上手に使えるといいかもしれない、っていう。
例えばヴィンテージのセットってある程度の音域って決まってるんですよ。そのレンジが。物理的にネジが回せないとか。張れないみたいな。
それはドラムだけじゃなくて生楽器って大体そうじゃないですか。古いとその帯域まででなくない?みたいな。
それが強さであり、弱さであり、みたいな。リアルじゃないけど、でも、音楽としては全然ありだよね、みたいな部分で。
現代的な音楽をやろうと思ったら、現代的なセットを選ぶほうが自然ではあると思うんですけど。
曲に合ったキットを選ぶ
ある程度限られた選択肢の中から、チューニングで幅を広げる、っていう発想。
欲しい音が鳴ってなかったときに、どう悩むか、なんですよね。
逆に打ち込みの人のほうが選べると思うんですよ。
ヴィンテージというか、なんかわりと土着な、牧歌的な感じの、あったかいサウンドで録りたいのに、めちゃくちゃハイブリットでハイファイなセットしかない、みたいな。
どう叩いても「バキィ」って鳴る、みたいなセットのときに、
じゃあそういうチューニングするにはどうしたらいいか、って悩む。
替えられるならおじいちゃんみたいなセットを選んだほうが早い。
スネアの表と裏のピッチは変えられなかったり、ソフトで大きくピッチを変えると不自然になるし。ミュートもできない。
DTMは選択肢が多くできるぶん、曲に合ったキットを選ぶ、というのが大事だなあ。
Toontrackだと、ジャンル専用になっているキットがあるから、そういうのを使うのも手かもしれない。
ドラムに決まりごとはない
例えば、ファンクならプレシジョンベース、みたいに。
ドラムは叩いたら鳴るっていう、めちゃめちゃプリミティブ(原始的)な楽器だから。
欲しい音さえ鳴ればいいんですよね結局。
極端に言っちゃうと、シンバルじゃなくて鍋のふたを叩いて、欲しい音が鳴れば全然それでよかったり。
何か決まりごとがあるんじゃないかなってずっと思ってて。
きちんと「決まりごとはないですよ」って言ってもらうってことがすごく大事で。
「この楽器はこうだ」とか「この音はこれしかない」とかみんな言うんですよ。
ゴールがないから、結局、みんな居酒屋で喧嘩するっていう…(笑)
僕だけじゃなくて、たぶん世界中の人がその曲に一番合った楽器選びって悩んでて。
ほんとにゴールがないから、たまたまハマることっていっぱいあるんですよ。
何かわかんないけど、これハマったね、みたいな。
めっちゃ高いスネアでも全然ハマんない事とかあって。前にやったツアーで使ってたスネアは2000円っすからね。実は(笑)
「こうやったらこんな音になる」っていうセオリーはあるけど、それしかないわけでもないし、正解はあってないようなもので。
まあ音楽自体、正解はないんですけどね。
おわりに
実際のレコーディングだとエンジニアさん、ドラムチューナーやドラマーが曲に合わせて丁寧にチューニング、音づくりをしています。
シンプルなフレーズを打ち込むにしても、音選び、音づくりがテキトーだと、そこだけで大きく差がついてしまうんですよね。
なのに、打ち込みのための音選び、音作りの話ってほとんど見ないし聞かない。一旦しっかりと聞いてみよう、と思ったのが今回の内容です。めっちゃ勉強になってしまった…。
プロフィール
神田リョウ
ダンスで培ったリズム感とグルーヴ、表現力には支持が厚く、幅広い音楽性に裏打ちされたダンスビートは特に評価が高い。メジャー、インディーズを問わず活動を展開する。
【織田哲郎】、【BoA】、【WHITEJAM】、【井上苑子】等のツアードラマーとしての参加や、日本最大級のストリートパフォーマンス集団 【TAPJAMCREW】のプロデューサー兼ドラマーとしても活動する。
またKORG社製品デモンストレーターの顔も持ち、ドラムをはじめ、パーカッションから電子打楽器まで使いこなす”踊れるドラマー”。
その他、インストバンド『Fango Inc.』、リズム&ドラム・マガジン 連載セミナー『#月イチ1グルーヴ』、ドラムループ集『EDOMAE LOOPS -RYO KANDA & TRIP edition-』発売。など。
Instagramに毎日投稿するドラム演奏動画『#一日一グルーヴ』も話題。
■Twitter(@tatakiyagroove )
■ドラムループ集『EDOMAE LOOPS -RYO KANDA & TRIP edition-』
第二回、第三回
参考リンク
■SUPERIOR DRUMMER 2 | Toontrack
※アップデートしてSUPERIOR DRUMMER 3になりました。