作曲家のこおろぎです。
作曲家の基礎能力というものを鍛えようとするときに
どんな勉強をします?
和声法とか対位法、管弦楽法
楽器の使い方を覚えたり
いろんなジャンルの音楽の作り方を覚えたり
DAWやプラグインの使い方を覚えたり
ミックスダウンのやり方を覚えたり…
作曲家として伸ばせる基礎能力っていうのはいろいろあると思うんです。
その中でも見逃されがちな能力があります。それは
選曲能力
です。
選曲能力とは何か
選曲能力とは
「舞台や映像作品を制作する時に、どこにどういう音楽をつけるのか」
ということを考える能力です。
どこにどういう音楽をつけるのか、ということを決める作業を「選曲」というんですが、
通常の作品だと、選曲さんと言われる方や、音響監督などが選曲を担当します。
「ここら辺に大体こういう曲をつけておけばいいか」みたいなことは全然なくて、
何らかの確固たる意図があって「このタイミングでこういう雰囲気の音楽を入れる」ということを決めていきます。
選曲がダメだと、緊張感がないとか、物語の流れがよくわからないとか、感動する場所で感動できないとか。そういったことが起こります。
選曲は目立たないんですけど、作品の印象や出来を大きく左右する非常に専門的な作業です。
作曲家は選曲をするということはそこまでないんですけれども 、
作曲家も選曲能力を身につけておくことで、選曲自体をしなくても、映画やドラマ、舞台などで、音楽自体をより質の高いものを作ることができるようになります。
選曲能力を伸ばそうと思っている作曲家志望の人ってあまりいないように思うんですよね。(気のせいかも)
実際、僕自身も、テレビドラマの仕事に関わるまでは選曲ということについて意識したことがなくて無頓着でした。
テレビドラマの仕事をやって選曲ってはとんでもなく大事なことなのだと思いました。
なぜ選曲能力が大事なのかっていう話していきたいと思います
なぜ選曲能力があると質の高い劇伴を作ることができるのか
なぜ選曲能力があると質の高い音楽を作ることができるのかというと、
演出への理解力が高くなるからです。
物語を読み解いて、それを視聴者にどうみせるのか、という能力が高くなる。
「こういう曲を作ってください」と言われて、
言われたままに曲を作るのと 、
そういわれた時に、「こういう効果を出すためにこういう指示が来て、こういう曲を作る必要があるのだ」と演出を理解して音楽を作るのとでは、
映像の中での音楽の効果、 映像へのハマり具合がまったく違ってきます。
例えば参考曲、リファレンスを渡される時もあると思うんですけれども、
何のためにその参考曲がそのシーンについているのか、その意図を理解できれば、
楽曲自体の構造が全く違う曲、リズムとかコードとか音色とか、そういったものが参考曲と全く違っていて似てなくても同じ効果を演出する曲を作ることができるんですね。
逆に演出の意図を理解する力がなかったら、参考曲の楽曲の構造だけを真似しちゃう。
リズムとかコードとか音色を真似するだけになっちゃうので、そうやってできるのは参考曲の劣化コピーになっちゃうんですよね
演出への理解力が高いと、参考曲を聞いた時に、楽曲そのものの構造をマネするんじゃなくて、もっと上位の概念から楽曲を俯瞰して、なぜこの楽曲が参考曲になっているのかと言う、もっと根本ところまで巻き戻って、メタ的に参考曲が分析できるようになる。
メタ的に参考曲が分析できるようになると「参考曲よりもこうすればもっと良くなるんじゃないか?」ということすら思い着くようになります。
選曲能力というものを高めて、演出の理解力を高めると、参考曲の劣化コピーじゃなくて、それ以上の効果が出せる自分のオリジナルの音楽を作りやすくなります。
舞台と選曲
僕は舞台をよくやっているので舞台の話をするんですけれども
特に舞台だと選曲能力が大事になってきます。
舞台って選曲さんとか音響監督、みたいな役割の人はいないんですね。
だいたい、演出さんと演出助手さんや音響さんが相談しながら、どういった曲をあてるかとか、曲をあてる場所を決めていきます。
その中で、作品にもよるんですが、ここにはこういう曲を絶対入れたいみたいのがきっちり決まってなかったりもするんですよ。
そういう時は作曲家の方からこういう曲はどうかみたいな提案をする隙間があります。
そういうふうに、選曲をサポートできる作曲家の方が 重宝されやすくて価値が高いと思うんですね。
今この人に頼んでおけば困った時に的確な助け舟とかアイデアを出してくれて、クオリティの担保ができる、より良い作品が作れるなと。選曲能力って付加価値になるわけですね。
ドラマとかでも小規模だったら音響監督さんみたいな選曲を仕切るような人がいないとか。
現場によってそういった能力が高い人がいないとか、特に小規模な作品だと選曲能力を発揮する場面が多くなると思います。
どうやって選曲能力を鍛えればいいのか
ここからどうやって選曲能力を鍛えればいいのかという話をしたいと思うんですけど
どうやって選曲能力を鍛えればいいのかというと
・映像作品に関わる
・自分で映像に音楽をつけてみる
・どういう風に映像に音楽がついているのか分析する
大きくこの3つだと思います
選曲能力って基本的には実際に映像作品に関わったり、自分で作ったりしないと覚醒しないなと思っています。
特に作品に関わったことがない人は完成された映像作品を見ても参考にならないんですよね。
なぜかと言うと、結果だけしか見えないから。
選曲能力を鍛えるためには、結果じゃなくて、曲を選んでるプロセスを思い浮かぶことができるって言うのが大事なんですよ。
「プロセスの結果、最終的にこの音楽になっているんだな」と。
そのプロセスが理解できると、
「このシーンに別の音楽を当てるならどういう音楽なんだろう」とか「こういう音楽をつけたらまた別の効果が出せるな」とか「タイミングをもっとズラした方がいいな」とか、決定されなかったいろんなパターンを思い描くことができます。
作品を沢山見ていても、完成版だけを見てると、なぜそこにこの音楽をつけてるのかというプロセスが分析できないんですね。
なので、完成版だけを見てると、いざ台本を渡されてゼロから音をつけてくださいみたいな時にどこにどう音楽をつけていいのかが分からない。
まあ、作曲家をはじめてからいきなりそんなことはないんですけど。
なんですけど、僕はテレビドラマの仕事を初めてやった時にそれに近い事が起こってパニックになりました。
あと、思考の柔軟性がなくなるんですよね。
完成版だけを見てると、ひとつのシーンで複数の演出パターンがあるというのが想像できないんですね。
「こういうシーンにはこういう曲だろう」っていう頭になっちゃう。
そうすると、自分のパターンに無いオーダーが来た時にパニックになります。
何の意図があってこの音がついてるのかが全くわからない、みたいなことになります。
やっぱりいくつも演出パターンが想像できてて「今回の選曲はこのパターンなんだな」みたいな感じになるのが理想です 。
仕事で劇伴に関わってないけど、能力を高めたいという人がやるトレーニングとしては
自分で作品を作ってみるってのがいいと思ってます。
別に発表とかしなくてもいいです。トレーニングなので。
自分で演技した映像を撮ってみて、そこに音楽をつけてみる。台本を読むだけでもいいです。
そこに市販のサウンドトラックをつけたり自分のオリジナルの音楽をつけてみる。
自分で、なぜこの音楽をつけるのか、ということを考えることによって、
他の作品を見た時にも「こういう風に音楽をつけたらこういう演出とか感情になるんだ」というのが分析できてくると思います 。
もちろん、演技のジャマにならない音楽の作り方とか、そういう技術的な能力もあげることができます 。
劇伴のサウンドトラックだけを聴くのは効果がない
劇伴の作曲能力を鍛えるためにやってはいけないこととしては、
「劇伴の音楽だけを聴く」
ということです。
サウンドトラックとかCDになってると思うんですが、それだけを聴くのは良くないです
なぜかというと、劇伴って、
映像や演技に対して何らかの意図があって作られているんですよね。
それをすっ飛ばして音だけを聞いても、どういう作品の中で、何の効果を出すためにその音にしたのかっていうのが理解できない。
その根本的なところが理解できてないとただ真似をするだけになっちゃうので、サントラと同じようなサウンドを作ったとしても、映像に合ってない音楽を作ってしまう事になるんですよね。
どんなリッチな音楽、技巧的に優れた曲を作ろうとも、その作品にきちんとあってなければ意味はないです。
劇伴の音楽を勉強するときにはまず映像作品の中で聴きましょう。
それでどう使われているか、その音楽によってどういう効果があるのか、どういう意図があるのかを把握するのが大事です。
サウンドトラックを聴き込むのは、大きなところを理解してからのほうが効果的です。
おわりに
というわけで今回は
選曲能力の話でした。
作曲の本はたくさんあるんですけど、選曲の本って全くないですよね?
探してもラジオDJ的な選曲の本しかない
映画での音の演出を解説してある「映画にとって音とはなにか」という本は買ったんですけど、
参考になっている作品がオンデマンドで配信されてないので、実際に見れなくて全然内容がわかんないんですよね。
選曲のいい教材を知っていたら教えてください
ではまた