エロマンガ先生の音楽は『黒子の劇伴』である。そのよさを語る。

アナライズ

サウンドトラック目的で『エロマンガ先生』のBD1巻と6巻を買いました。サウンドトラック目的で。

エロマンガ先生の劇伴ってものすごくよかったんですよね。音楽は菊谷知樹さん、音響監督は山口貴之さんです。

今回は、エロマンガ先生の劇伴について、思いつく限り書きなぐっていきます。

エロマンガ先生劇伴のポイント

・最小限の音数
・表現のダイナミクスの大きさ
・汎用性のコントロールのうまさ
・ほとんどの場面で音楽が会話の後ろなので目立たない

もちろんあなたも「エロマンガ先生」というアニメを視聴したと思うが、劇中で流れている音楽がどんなものだったか覚えているだろうか。

特に、曲が聴きなれてくる4話までは、音楽が全く聴こえてこなかったと思う。

聴こえてこないのに気持ちや状況を絶妙に盛り立てている。

「いい劇伴」というか「悪いところがない劇伴」。完璧に裏方として支えている。

実はこれって作るのがめちゃくちゃ難しいんですよね。いい意味で教科書的な劇伴だと思っています。

最小限の音数

驚くべき引き算のうまさ。音数をできる限り少なくすることで、セリフが聞えやすくなる。

日常系アニメで参考になりそうな曲を結構探したんですけど、じっくりと会話する場面でここまで音数が少なく、効果的な音楽はなかったです。

また、意図的にC4~C5あたりのセリフの周波数を避けた音使いになっています。

そして、盛り上げるところ、セリフの声を張るところはたくさん音を入れて、派手にガツンと盛り上げる。そのダイナミクスのふり幅が気持ちいい。

楽器、曲調の多彩さ

バラード、ラテン系のもの、ファンク、3拍子など、曲調が多彩。中心になる楽器を変えて雰囲気のバリエーションを出したりもしている。

全体的に生楽器中心のプレーンなイメージでまとめてあります。

汎用性のコントロールのうまさ

汎用性があるほど多様なシーンで使える曲になるが、印象が薄くなる。

汎用性がないほど印象は強くなるが、多様なシーンで使えない。

そのコントロール具合が絶妙。

汎用性がある曲の例としては「小さな頃」。

回想シーン中心に使われる曲なんですが、現代においての、昔を思い出すような場面でも使える。悲しすぎないのもポイント。

これがピアノじゃなくてオルゴールだったら昔っぽすぎて汎用性がなくなっていたと思う。

特に特殊イベント系の曲は色々な場面で使えそうに工夫していますね。

汎用性がない曲は、和泉紗霧と千寿ムラマサの専用曲が特徴的です。

この2人の曲は極端に色づけされていて、他の人間の場面で使えない。特にムラマサは和楽器が使われていて、他の場面で使うとかなり違和感がある。

こうやって汎用性をコントロールすることで、キャラクターの重要度を明らかにするということもやっていますね。

なぜ印象に残らないのか

劇伴が印象に残るかどうか、というのは、曲そのものよりも、作品の中での曲の使い方のほうが大きいんですよね。

例えば、「ご注文はうさぎですか?」の場合は、移動をするたびに場所を示す音楽が単独で流れる。こういう風に、場所や場面についていると印象に残りやすい。

エロマンガ先生の場合、会話の後ろで流れている場合が多く、耳が会話のほうに行ってしまう。そして音楽が単独で使われている場面が少ないので印象に残らないわけですね。

悲しいシーンで明るい曲が流れる、のような映像との対位法的な使い方もされない。

音楽から内容を考察する

音楽から物語の内容もある程度読み取れます。

重要なのは和泉紗霧と千寿ムラマサ

和泉紗霧と千寿ムラマサにだけ専用曲が複数用意されていて、この2人が特別に重要だということがわかります。

一応、高砂智恵、神野めぐみの場面でよく流れている曲はあるものの、どちらかというとそのキャラクターのテンションや場面についている感じで、音色も汎用的であり、専用曲とまでは言えないです。

山田エルフもバンジョーが入っているものは専用曲っぽい感じはありますね。「エルフの森」という、9話での山田エルフとのシーンだけに作られている曲もあります。

12話はおまけ

12話は心情を表すような曲が使われていないんですよね。

そのことから、11話でストーリーが動くものは終わっていて、12話はおまけだということがわかります。

おわりに

今回、いいなと思った劇伴をしゃぶりつくすように研究してみたんですが、おもしろい発見がたくさんありました。

今も、この劇伴のほとんどの曲をマネして作ることをライフワークにしています。

日常系アニメの劇伴を作りたい人は研究してもよいと思います。ただ、「エロマンガ先生」自体が、公に勧められる内容なのかというとちょっと考えてしまいますね!

ほんとに、作り手しかよさがわからないような劇伴だと思います。だれも存在を認識していないけど、いつの間にか効果が出ている、みたいな。

まさに「黒子の劇伴」。

リンク

サントラを聴いてみると、使われていない部分も入っていて、それがなぜ使われなかったのか、というのを考えてみるのも面白いです。

音響監督さんが使いづらく作ってしまったという、いわゆる「ボツ」の部分も含まれているので。例えばレゲエ調の「兵糧攻め」は前半ばかり使われていて、後半は全く使われていない、など。

1巻のVol.1は和泉紗霧の専用曲などの前半で出てくる曲、6巻のVol.2は千寿ムラマサの専用曲などの後半で使われる曲が収録されています。

by カエレバ

by カエレバ

1話はこちらから見れます。