インクを撒き散らすゲーム、スプラトゥーン(Splatoon)にハマりすぎてしまった男、こおろぎです。半年ほどほとんど毎日プレイし、先日最高ランクのS+になりました。
プレイするほど、音に関しての発見があるなあ、と思ってまとめてみることにしました。
以前紹介した「ゲームサウンド制作ガイド」を引用しつつ紹介したいと思います。
プレイヤーメイク、カスタマイズ、試し打ち、マッチング待ち時間、ギアの購入で学ぶ没入感とループ技法
プレイヤーメイク
マッチング待ち時間
試し打ち
ギアの購入
プレイヤーメイク、カスタマイズ、ギアの購入など「何かを選ぶ」という場面では急がせないように、マッチング待ち時間では長い間流れていてもプレイヤーが待たされているという感覚を受けないように、ループを感じさせないようなサウンドデザインになっています。
ここですべきことはプレイヤーの心理的な不安を取り除くことです。~中略~ 盛大な歌や強烈な音はかえってプレイヤーの不安をあおるだけなので、それらを意図的に避けるようにしましょう - ゲームサウンド制作ガイド P41
不安を取り除き、没入の邪魔をしない音楽。
また、これらはループの技法として「反復音」が使われています。
反復音は単一の構成要素からなるループです。構成要素としては、メロディーの断片や、音のパターン、ベースライン、リズムパターンなどが該当します。和声進行はなく、静止したルート音の上に単一のコードが広がるのみです。この技法は、不変な楽曲は聴き手の注意を引くことなく反復可能であるという理論に基づいており、すでに多くのゲームで実証済みです。 – P172
特徴的な進行や盛り上がりを入れない事で、ループしているという感覚を持たせないようにしています。
チュートリアルのインタラクティブな音楽
一番最初のチュートリアルでの音楽。プレイ動画です。0:36から。
ステージが進むにつれてスムーズにアレンジが変わっていくんですよね。
ベース、その他のみ→ギターが入る→キックが入る→ドラムパターンが変わる、シンセが入る
と変化していきます。
我々は音楽によりあらゆるゲームの状態をプレイヤーに知らせることができます – 43P
ここでは扉や境界線がないので、音楽の変化によって「きちんと先に進んだよ」「次のミッションがあるよ」というのを知らせています。
バーティカルレイヤリングされた街の音楽
街では色々な音楽が常に混じりながら鳴っている事がわかります。そして、場所によってその混ざり具合が変わる。それでいて音楽的に聴こえる。
実際にこの「ハイカラシティ」で色々な音楽が鳴っていて、それが混ざり合っている、といった設定です。
こういう風に同時に別のトラックが重なることを「バーティカルレイヤリング」と言います。
これを制作するのはなかなか難しそう。
各レイヤーは単体で再生されても十分に楽しめること。~中略~全てのレイヤーが同時に再生された時も、すべての音がクリアに聴き取れること。 – P203
我々は、バーティカルレイヤリングにおいて、複数のレイヤーが重複してもなお分離して聴こえるために、(トーンカラー)を利用することができます – P209
トーンカラー、要するに、トラックごとに別々の特徴を持った音色を使うということです。
例えば、ロビー付近からはキックとベース、お店の方からはシンセリード、電車の方からはギターのカッティングと、別々の音色が使われてます。
ヒーローモードで学ぶライトモチーフ
ヒーローモード ステージ曲
ヒーローモード ボス戦
ヒーローモード 勝利リザルト
一人でストーリーをプレイするヒーローモードでは、「ダッダ、ダダダ」というライトモチーフが使われています。
(ライトモモチーフは)聴き手の注意をその対象に向けさせることで、需要な概念を想起させたり強化したりする役割を持ちます。 – P61
ヒーローモードのステージど頭からモチーフが提示されて印象に残ります。
これが勝利リザルトにも使用されていますが、クリアの時と共通のモチーフを使用することによって、ステージやボス戦で勝利のイメージをもってもらおうという、作曲家からの応援の意味が込められているのではないかなあと勝手に推測します。
ですので、これはタコ側のモチーフではなく、プレイヤーのモチーフですね。
タコの主題でしたら「ダッタ、ダダダ」のような歯切れのよい、力強い音ではなくて、もっとにゅんにゅるりなメロディにするはずですし。
また、ヒーローモードではオンライン対戦中の音楽ほどグイグイと進む感じではなく、進みながらもじっくりとクリアしていく、マイペースな曲になっています。
シューティングゲームでは異例のオンラインバトル中の音楽
一番耳にするであろう、オンライン対戦中の音楽について。
ストーリーをクリアするヒーローモードのように、1度聴いたら終わりではないので、飽きないように9曲用意されています。
他の場面のBGMと明らかに違うのは、明確な1本のメロディがあるということです。メロディというのは、プレイヤーの気持ちを前に進ませる効果があります。
逆に、「さんぽ」でBGMがない理由は、BGMがあると気持ちだけ前に行ってしまい、ソワソワしてじっくりとステージを見ることができないからですね。
オンライン対戦中の音楽についてはマイナビニュースさんでコラムも書かせていただきました。
・「Splatoon(スプラトゥーン)」 のイカしたサウンドを徹底分析 – 作曲家が人気の理由を考えてみた | マイナビニュース
ここでは
・メロディラインがハモりや対旋律がなくシンプルなこと
・イカ語なので、プレイの邪魔にならないけれど、”歌モノ”として耳に残ること
・音色の変化が少なく、シンプルなのでゲーム中の効果音と聴き間違わないこと
といった事を書いています。
また、他のシューティングゲームの音楽と大きく違うのは、BGMのボリュームが大きく、ポップな事です。
通常TPS、FPSと言われるシューティングゲームでは、空間のあるオーケストラが主流です。プレイの音を注意深く聴く必要があるため、ポップでアタックの強い音は敬遠されているんだと考えます。
どうやってBGMとプレイ中の効果音を聴き間違えないようにデザインされているのか。
まず、弾がヒットする音はスネアと似た音ですが、スネアはヒット音よりピッチが低いのと、音が遠いのと、ボリュームも低いので、ヒット音でマスキングされている。また、効果音が鳴る瞬間にBGMの音量が下がっていること。
あとは、パンが動かないこと。街の中では移動するとBGMのパンが動くようになっていますが、対戦中でもそうするとヒット音と混ざってしまう。
シューティングゲームで銃声とスネアドラムがサラウンド空間の中で混在している場合、プレイヤーはスネアドラムの音にどうしても反応してしまい、混乱してしまいます – P241
ヒーローモードの音楽も、「敵陣営で流れているラジオ」という設定にも関わらずパンが移動しない、サラウンドサウンドではないのはこのせいでしょう。
コラムでも書いた通り、バンドなので音色の変化が少なく、構成がシンプルなので、BGMとして聞き流しやすいこともあります。色々な音を使った打ち込みアレンジだと、突然使った事のない音色が出てきて耳を奪う可能性がある。
ついでに、インクの中に潜った状態では、BGMにフィルターがかかり、効果音が聴き取りやすくなります。
他にも原因はあるかもしれません。常にでかい音楽が鳴っていて、なおかつ色々なプレイ音が聞き取れるスプラトゥーンって斬新なサウンドデザインで作られてるなと思います。実際に僕自身聴き間違えたことはないです。
ゲームのスパイスとなるシオカラ節
おそらく一番有名な曲ですが、ゲーム中にはほとんど出てこないという謎の曲。コラムにも書いたとおり、ほぼ「ミ♭ソ♭ラ♭シ♭レ♭」 の黒鍵で作られており、覚えやすくアレンジがしやすい曲になってます。
おわりに
あらためて、色々な技術が使われているんだなあと。時間を浪費しているだけでなく、勉強になっててよかったよかった。
リンク
スタッフへのインタビュー記事もどうぞ
・『Splatoon(スプラトゥーン)』サントラのマスタリングを直撃取材! 『シオカラ節』の歌詞などをサウンドスタッフにインタビュー&トラックリスト初公開(1/2)
2もね。