デジタルクロックを発生させ、オーディオインターフェイス等に入力する機材、クロックジェネレータについて、
「買ったけど音が変化しなかった」とか、「今年買って微妙だったもの」だとか、いろいろと悪口を書いたところ、
かごめPさんから「自宅スタジオに来てください、本当のクロックジェネレータの使い方を見せてあげますよ」と言われたのでお邪魔してきました。
プロフィール
かごめP(@kagome_p )
岩手県出身。幼い頃からピアノ・エレクトーンを習う。音大卒業後、レコーディングスタジオで働く傍ら、2009年にボカロPとして活動を開始。その後、様々なアーティストのミックス/エンジニアリングを手がけ、動画サイトに上がっている、自身の関わった楽曲数は200曲を超える。工学社より著書「ボーカロイドで作曲入門」を出版、幅広い領域に活動の幅を広げている。
■マスタリングした知名度のある動画
・脳漿炸裂ガール
・トキヲ・ファンカ
■マスタリングしたCD
・Da Rhyizm
・VOLTAGE
・KRAD MATRIX
■Web Site
http://planariya.tumblr.com/
機材確認
まずはかごめPさんのお宅の機材を確認。
クロックジェネレータ
MUTEC 『Smart Clock AV』
今回の主役、クロックジェネレータ。
ハーフラックのコンパクトなタイプ。生産完了品です。
オーディオインターフェイス
Lynx Studio Technology 『HILO』
最小限の入出力でAD/DAコンバータ、USBオーディオインターフェイス、ヘッドフォンアンプ、モニタコントローラーを兼ねる一品。タッチスクリーンが特徴的。こちらもハーフラックサイズ。
モニタースピーカー
Dynaudio 『BM5mkⅢ』
半年ほど前に導入したそうです。特に「低音が下まで歪まずに綺麗に鳴る」とのこと。
別売りのボリュームコントローラー(右下)は音量を変えても聴こえかたのバランスがほとんど変わらない、ということでかごめさんが大絶賛していました。
スピーカーへのケーブルはZAOLLA。
試聴音源
クロックの聴き比べに使用する曲です。Youtubeを貼りますが実際はWAV版を聴きます。
Bruno Mars『24K Magic』
Daft Punk『Give Life Back to Music』
SQUAREのシューティングゲーム「EINHÄNDER」の『Bloody Battle』という曲も周波数のバランスや楽器の入り方、音の終わりの見やすさなどからリファレンスとして使用しているようです。
実聴
では、聴いていきます。
Smart ClockからHILOに入力するクロックと、HILOの内部クロックとの聴き比べ。
…どこらへんが違います?
これが外部クロック
ガチャガチャ…
これが内部クロックです。
(これを5回くらい繰り返す。)
かなりわずかな違いではありますね…
参考に、ケーブル類やインシュレーターなど、他の部分を変更した音も聴かせてもらいました。
それで、僕が感じた音の変化の大きさは
スピーカーのインシュレーター>I/Fからスピーカーへのオーディオケーブル>I/Fの電源ケーブル>クロックジェネレータ
の順番でした。
特にインシュレーターは、スパイクとゴムっぽいものの二重になっていたのですが、それぞれ高域と低域がかなり整う印象になりましたね。
■スパイク
・aet / SH-3530(完了)
■スパイク受け
・aet /SH-3511B
■ゴム(スポンジ)っぽいもの
・VFE-4010U
そもそもAntelope『Isochrone OCX』で音が変わらなかった理由
そのため、基本、RMEのインターフェースは何のクロックを入れても音は変わりません。
聴き分けられないのは、RMEのクロックの良し悪しの問題では一切なく、単純に「RMEに何の外部クロックを入れてもほぼ一緒」というだけです。
もし、RMEを入れていて、「音が変わった」という人がいたら、最初は疑ってみた方がいいと思います(笑)。
ちなみに僕の使っているHILOも同様の機能が付いているので、その機能は常にOFFにしていますね。
ONにするとかなり音が変わるので、HILOの場合は完全に別のクロックに置き換えているっぽい感じがします。
もともとは音質向上を目的とした機材ではない
すごいざっくりですが、SONYのPCM3348やAlesisのADAT、YAMAHAのO2R等、スタジオにデジタル機材が多くなる中、それぞれの機材間で同期して音声データを劣化なくやりとりをするためでした。
デジタル音声機材を複数接続する際は、基本的に各機材に「マスター」と「スレーブ」を設定する必要があります。
-これは、クロックの概念を分かりやすくするための乱暴な表現ですが……。
デジタル音声は、例えばサンプリング周波数44.1kHzの音だったら、1秒間に44100回データをやりとりします。
通常、音楽の波形はこんなカンジ。コレを拡大していくと……
なので、どうにかしてそれらのヨレを修正するか、又は一つのクロックでシステム全体を統一する必要があります。
そうしないと、音声データを受け渡すタイミングがズレて、データを受けた側では「空白のデータ」として処理され、ノイズになってしまうんです。
デジタル録音時に同期が切れると、このように波形が途切れます(画像真ん中あたり)。
また、動画が絡む作業の場合、「他のスタジオにプロジェクトを持ち込んだ時、何か設定ミスがあっても吸収できるように」といった役割があり、基本はスタジオ内でシステムを安定動作させるためのものなんですよね。
なので、クロックに音質を追求するのは、メーカーの趣味みたいなものなんですよ。
特に、DAWの内部完結で音楽を制作するんであれば、クロックの良し悪しはバウンスの音には影響しませんから(笑)。
僕だと、今のクロックのほうが高域の応答が良く、ハイハットが粒立って聴こえるので、アナログ機材を通してマスタリングをするために使用しているかたちです。
また、精度が高いから音質がいい、というものでもないっぽいんです。
そこの元スタッフが関わっているのがAntelope(こおろぎが購入したクロックジェネレータのメーカー)です。
クロックの水晶発振器は温度に影響を受けるので、水晶発振器を常に同じ温度環境下にしているものが最近のトレンドですね。
※OCXO(恒温槽付水晶発振器)、TCXO(温度補償型水晶発振器)など
また、人工衛星から降ってくる電波を利用するクロックというのもあります。
■インフラノイズ、GPSを利用したクロックジェネレーター発売
GPS人工衛星には1500万年に1秒も狂わないといわれる精度の超セシウム、またはそれと同等以上の超高精度電子時計が積まれていることが目されるとして、これを利用することにより、ワードクロックのさらなる高精度化を図っている。
おしまい
なんだかやばい話になってきたところで、今回の訪問はおしまいです。
その後は機材の話と同じくらい、お宅のいたるところにあるぬいぐるみのお話でした。ドイツのパンのキャラクター、ベルントくんやクモやトカゲや半導体やコンデンサーのぬいぐるみなど…
変な形のものが多かった…
かごめPさん、丁寧に対応してくださりありがとうございました。
今後インターフェイスを買い替えたら再度クロックジェネレータを考えたいと思います。
機材おまけ
せっかくお邪魔したので、本筋ではない機材もご紹介。
ADDAコンバーター
Lucid 『88192』
ヘッドフォン
Sennheiser 『HD800』
『88192』のほうはアナログに戻すときに使うようです。こちらもクロックを入れることができます。
『HD800』はオープン型。ガッチリとしたつくりです。オープン型ってはじめて聴いたような気がするんですが、かなりよいですね。
かごめPさんはヘッドフォンではミックスをしないようです。僕もです。
SPL 『VItalizer MK2-T』
イコライザー、コンプレッサー、とステレオエキスパンダーなどの複合機。平たく言うとエキサイター。
マスタリングの時にこれをアナログで通してDAWに戻すようです。
各楽器の明瞭感が増すらしい。調べてたら欲しくなってきた…。
Razer『Nostromo』
ゲーマー向けの左手用キーパッド。
マウスはなく、右手はペンタブ、左手はこのキーパッドでスクロールなどの操作をするという特殊なスタイルで作業しているそうです。
キーボードもキーを割り当てられるゲーミングキーボード、Cougar「500K」。「ホットキーの数とタイピングのしやすさで決めた」とのこと。
1+3枚のディスプレイ
スピーカーと同じ写真なんですが、1+3枚のディスプレイが印象的です。
上の1枚は4Kディスプレイ。下の3枚はミキサーやプラグインを表示させているみたいです。上に重ねてないので、頭が疲れなくてよさそう。
パソコンもずっと自作しているようで、年季が入ったボディでした…
参考リンク
・クロックジェネレータの説明
■高嶺の花!?高性能なクロックジェネレーターを使ってみよう!
・Antelopeの歴史
■Antelope Audio〜make a strategic move〜その歴史と技術に裏付けされたオーディオI/Oが誕生した布石とは
ガチャガチャ…
これが内部クロックです。