第一回に引き続き、多田彰文さんに色々なことを聞いてみた、第二回です。
僕自身、ドラマや舞台の劇伴を制作することはあるんですが、毎回スケジュール感や段取りのしかたが掴み切れなくて苦労します。
このあたりの具体的なことというのはあまり情報がないので、それを多田さんに聞いてみました。今回はかなり実務的な内容になっているはずです。
劇伴の仕事が来るのは公開の2ヶ月前くらい
最短で1週間だったかな。30曲。それはちゃんと生で録音するものです。それは一人じゃできないから、その時は3人の作家でやったかな。半分は僕がやりました。
ミックスまで自分でやるっていう納品だと、3週間60曲というのがありました。1曲あたり90秒で。そういう短い期間のものもありますけど。
自分から先手先手で攻めていく
それ以外に、劇伴として情景を作る時に必要な美術設定とか、キャラ設定みたいな絵。もちろんまだ非公開なものですけれども。
それを見てイメージを膨らませたり、自分だったらこういうのがいいかな、という資料を持っていったり。あと、自分が過去作った中で合いそうなものを資料として、打ち合わせの時に用意しておきます。
空気を読みながら「感動の何か」って言われた時に「例えば、こういうのどうですか」って聴かせてみる。
最近ではそこから一歩踏み込んで、打ち合わせの段階でデモを勝手に作っていってます。「こういう感じじゃないですか、こういうのどうですか」みたいな。
自分からどんどん先手先手で攻めていく。違うって言われたら素直に引っ込められばいいわけで。
音響監督によっては「いやまだちょっと色々悩んでるんですけどね」「迷ってるんですよね」って言われた時なんかは、「僕としてはこういうので行きたいなと思ってるんですよ」「こういう音楽性方向性いかがですか」みたいに提案する。
出したものに対して「ちょっとそれは違うな」とか、そういうのを言ってもらうのは自由なので。
自分のやりたいことが決まっている人だと、逆にその人の話を聞いた方がいいです。
そうじゃない人だったら、こっちから出したものを選んでもらう。
ものを買うときと似てますよね。
例えば、パソコンを買うとして。ゲームをやるパソコンが欲しいんだけど、どのメーカーがいいのかどれくらいのスペックがいいのかわからない。
その時に、店員さんが、あんまり商売っぽくなく、どうしてもこれが売りたいからって持ってくるんじゃなく、その人の立場になって、「こういうのあります、こういうのもあります」っていうふうに2、3選択肢をくれるっていう。
そのやりかたがいい場合もあるし、「こういう方向性で」って言われたときに、それをもうちょっと広げられるように「この音楽だったら、こういう編成ですね」とか。
映像や映画について
関くんのときは、実写版だったら動画はできてたんじゃないですか?
そこまでは台本だけを見て曲を考える作業をしていました。音楽メニューもなく。
かつて僕があたったものは絵の方が先で。撮影の方が先に進んでいて、もうセリフも入って。それに音楽をつけました。
ここまで何秒間は「焦り」ここからは「やすらぎ」とか。しかも使うのは1回こっきり。
版権が同じであれば、映画もテレビシリーズもあれば、映画で作ったものをテレビ用に使ったり、っということはたまにありますが。
予算について
最近では、プロデュースごと引き受けるから、そのときは金額的な話はします。そういうときはこっちから聞いたりしますけどね。実現したいと思うこととお金がちゃんと釣り合うかどうか。
そこは夢物語ばっかり語ってても、後でショボーンってなっちゃうので。
「そういうことをやりたいんだったら、どれくらいの規模でやるんですかね」って、それを嫌味なく聞きます。
単に「いくらですか!」とは聞けないですから(笑)
最初のデモは2、3日で提出する
それは本当にコンピューターベースで、いわゆるデモ、というよりもプロダクションに近いです。
そのデモを全部提出する時もあるし、30曲中の2、3曲、メインテーマのところとか、ちょっと方向性がわかるものだけを提出して、あとはおまかせっていう時もあります。
もう二日三日で。その方が自分としても制作の時間を稼げるので。クライアントさんとしても早くわかるし。
これじゃないって言われた時にすぐ対応できるから。
そして、ミックスのあがり=納品日。ぐらいの感じですかね。もしくは1日予備があるくらい。
連絡の頻度など
全部デモ出す時は全部デモ出す時で、ラフで作るんではなくて、割ともうガチで作っちゃいます。OKが出ればそのまま録音できるわけなので。
だったらもう、はじめからその方向で作っておいて、8割くらいのところまでやります。
例えばストリングス音源とかも仮の音源を使うんじゃなくて、本腰を入れた音源を使っておいて、あわよくば打ち込みでも成立するようにします。
いろんなことを伏線にかけておく。生で弦を録れるってわかっていても、万が一、時間が足りなくなるってこともあるので。打ち込みでも何曲かは通せるようにしておきます。
昔はおまかせっていうことが多かったんですけど。今はおまかせって言われてても、聴いてもらったりします。
それもまたさじ加減で。あんまり聴かせすぎても、向こうが迷っちゃうので。向こうも並行して作業をやっているわけだし。そこは適度に空気を読みながら。
欲しいと思ってる人とそうでない人っているみたいだから。
とにかく何でも聞きたい、全てあるものは情報として欲しいっていう人もいるし、そうじゃない人もいる。任せたのになんでいちいち聴かせるんだよ、っていう人もいるかもしれない。
それを総合して考えると、結局人間関係ですよね。何であっても。
ハードディスクで納品
昔だとテープだったんですけど、今は2MIXとProtoolsファイルを含めてハードディスク納品です。
僕は別に何されてもいいタイプだから。人によっては「まとまった音楽以外使ってくれるな」っていう人とかもいるんだけども。
僕は、必要だと思ったら使ってくれればいい、ステムであろうと、バラの1個の素材であろうと。僕が音楽を担当することには変わりはないから。
アーティストの自主制作の場合は、僕が直接話はしましたが。スタジオを自分で押さえて。
それは知り合いのミュージシャンと最初から連絡を取り合って。逆に「いつだったら空いてる?」って聞きました。
おわりに
いかがだったでしょうか。
なるべく、実際に自分がやることになったときのシミュレーションができるように聞いてみたつもりです。
結局のところ、その仕事をやってみないとわからないことも多いんですけどね。
予算については、ちょうど多田さんが藤本健さんと作った「DTMステーションCreative」というレーベルの予算・会計が公開されています。
■DTMステーション、M3-2018春に参戦。作曲家の多田彰文さんと新レーベル始動し予算・会計も大公開。第1弾シンガーは小寺可南子さん!
※MA 完成した映像に音楽、効果音、ナレーション等をつけて音の最終調整をする作業。「audio post production」ともいわれる。
※オフライン 仮編集の動画
プロフィール
多田 彰文(ただ あきふみ)(@akifumitada )
1989年手塚治虫原作「火の鳥」舞台演劇にてシンセサイザー演奏デビュー。
その後、辛島 美登里をはじめ、馬渡松子、中川翔子など 歌手・アーティストのツアーミュージシャンとして演奏活動を行う。
ドラマやアニメ、ゲーム音楽の制作やアーティストのプロデュースも手掛ける。
キーボード・ギター・ベースはもとより、木管・金管楽器、ヴァイオリン、パーカッションから大正琴まで、あらゆる楽器を弾きこなすマルチプレイヤーでもある。
「魔法つかいプリキュア!」前期ED作曲、「中二病でも恋がしたい!TOM」編曲、
アニメ「ずんだホライずん」、劇場版ポケットモンスターシリーズ、劇場版クレヨンしんちゃんシリーズなど多数。