今回はPlayStation 4のゲーム、Ghost of Tsushima(ゴーストオブツシマ)の音楽の研究と解説をやっていきます。
ゴーストオブツシマとは、鎌倉時代に モンゴル帝国および高麗が日本の対馬に侵略してきたという、
「元寇」をテーマにしたゲームです。
主人公、侍の境井仁が蒙古軍から対馬をとりもどす、というストーリーになっています。
このゴーストオブツシマ、僕は1日18時間、それを3日連続でやってクリアしました。
その後も少し進めて、トロフィーまでコンプリート。
点数をつけるとしたら、100点満点中、51600点ぐらい。それくらい素晴らしいゲームです。
また、このゲームの中で音楽というものが非常に重要な役割を果たしているわけなんですよね。
その点も素晴らしいなと思い、今回急遽、研究と解説をしてみようかなと考えました。
ゲーム内での音楽、楽器について
まず、ゲームのフィールドで使われている音楽や楽器について見ていきます。
ゲームとしての音楽には鎌倉時代の楽器ではないものが使われてるんですけど、舞台上、フィールド上にはほとんど鎌倉時代のものしか出てきません 。
尺八は普化尺八
尺八はこのゲームで琵琶と並んで重要な楽器です。
尺八もいろんな種類があるんですけれども、このゲームだと普化尺八と言われる尺八だけ出てきます。
普化尺八は、真竹の根に近い部分を使用して作られる指孔が5つの縦笛です。
長さが一尺八寸(約54cm)ということから尺八と呼ばれるようになりました。
普化尺八は鎌倉時代に中国、当時の南宋(なんそう)より普化宗とともに伝わったと言われています。
プレイヤーが操作する、武士の境井仁が普化尺八を吹けるんですけれども、
鎌倉武士は太鼓・笛・鉦(かね)などをたしなみとして演奏するという文化があったんですよね。
雅楽もそうなんですけど、貴族や武士などの位の高い人が中心になって音楽をたしなむ文化というのは世界的に珍しいんじゃないかなと思います。
武士は普化尺八を演奏しない
ただ、普化尺八って室町から江戸時代に、普化宗の僧が演奏するというスタイルが定着したんですよね。僧以外は演奏してはいけない、という時期もありました。
鎌倉時代に武士が普化尺八を演奏する、という文化はなかったと思います。
なので、侍である境井仁が尺八を吹く、というのは鎌倉武士の姿ではなく、時代劇から着想を得て実装されているのかなと思います。
武士から虚無僧になった方もいるみたいなんですが、虚無僧に変装して不意をつく、みたいなやり方は時代劇でしか登場しないと思うんですよね。
実際にアイテムとして虚無僧の編笠を入手することができるんですが、編み笠を被って尺八を吹くという虚無僧のスタイルというのは江戸時代から登場します。
フィールド上にも尺八を吹く人が出てきます。
どういう人が吹いているのかと言うと、
場所はお寺で、法衣を着た僧だったり、百姓っぽい男性や、女性が吹いています。
場所がお寺ということで、やはり、宗教と関連した楽器として配置されているのかなとは思うんですけれども、
武士である境井仁が吹いていたり、百姓に見えるキャラクターが吹いているということで、鎌倉の文化とはすこし外れていて、ゲームのアクセントとして配置されているのかなという印象があります。
僕もプラスチック製の尺八を持ってるんですけど、演奏が非常に難しいです。
そのぶん表現力が豊かな楽器ではあるんですが。
やはり僧が演奏する楽器ということで、人に聞かせるということももちろん、習得の難しさ自体を修行としてやっていたというところもあったんじゃないでしょうか。
演奏されている尺八のフレーズに関しては、当時のフレーズに近いかどうかは分からないんですが、現在に伝えられている普化尺八らしいフレーズになっているなと思います。
実際のところ尺八は楽器としてよりも宗教での法器(法具)として認識されていたようです。
ちなみにこのゲームで尺八を吹く、と天気を変更することもできます。こおろぎを集めることで吹ける曲も増えます。
平家琵琶
このゲームで琵琶は、尺八に並んで重要な楽器になっています 。
琵琶の中でも、このゲームに出てくる楽器は平家琵琶といわれるものですね。
柱(フレット)が5つだったり、月形の装飾がつけられていたりするのが特徴です。
平家琵琶は鎌倉時代のはじめ頃に生仏(しょうぶつ)という盲人音楽家が始めたものです。
後世のすべての語り物の元祖と言われています。
平家琵琶で演奏されるのは平家の栄華と没落、武士階級の台頭などを描いた軍記物語。
ゴーストオブツシマの公式ブログでも触れられていたんですけれども、現在、平家琵琶を演奏できる方は数人しかいない。
その中の一人の方が幸いにも参加できたということらしいです。
■Score of Tsushima: The soundtrack of Ghost of Tsushima
このゲームのサブクエストでは、各地の琵琶法師から伝承を聞き、その伝承をもとにクエスト達成して兵具(ひょうぐ)や技を入手します。
このゲーム内容が、軍記を語り継ぐ平家琵琶というものと自然に融合していて素晴らしい。
どちらかと言うと時代劇的なかっこよさで歴史を無視して取り入れられてる尺八に対して
鎌倉時代のコンテキストに沿って取り入れられている琵琶、という立ち位置になってるなと思います。
音楽的にいうと、このゲームの琵琶法師の歌いかたと、平家物語の歌いかたとは違いますね。
歌というより、ただのしゃべりに近い感じになっています。さすがにオリジナルで曲を作るというのは難しかったのかなと思います。
晴眼の百姓が平家琵琶を弾いている!
琵琶法師だけでなく、百姓に見える男性が琵琶を弾いてるところを見つけました。
目は見えているような雰囲気があります。
実際にこういう人はいたのかというと、調べてもわかりませんでした。
江戸時代になると、晴眼の人でも平曲を演奏しはじめたという情報はありました。
この部分はもしかしたらゲームだけの創作かもしれません。
もしかしてこれは門付では?
そしてこれ、門付にも見えるんですよね。
門付とは、人の家の門口に立って芸能を見せて、報酬を受けとるという文化です。
鎌倉時代に門付っていうのははっきりとはなかったみたいなんですけれども、
演奏内容がですね、
まず、歌なしのインストゥルメンタルで演奏されてるということ。
次に、ひとつなぎの3分の曲を通して演奏するのではなく、フレーズごとに一つ一つ切ってあって、それがランダムに再生されてるという形になってるということ。
これって津軽三味線にすごく似てるなと思って、津軽三味線音楽ってすべてのフレーズがきっちり決まってるわけじゃなくて、ある程度アドリブでやってるんですね。
それはなぜかっていうと、奏者が盲目なので、きちんと楽譜として決まった形で伝えられてないからなんですよね。
こういうことを考えると、一般人っぽい人のが弾いている平家琵琶は、どちらかと言うと津軽三味線の門付的なコンテキストで配置されてるのかなと思います 。
和歌を詠む
プレイヤーが和歌を作る場面で、朗詠っぽいものが流れます。
プレイヤー自身が詠むときは通常の語りの形になってます。
和歌を詠むこと自体は、ゲームの内容とはそこまで密接ではないかなと思います。
鉢巻などが手に入るんですけれども、その鉢巻自体も密接な関係はありません。
このゲーム内では、和歌を作るという要素は、日本の文化と景色を楽しむだけのものに感じます。
また、この和歌を作る場面の良いところは、
めちゃくちゃ絵面が地味なんですよね。
雅な景色だけを歌に詠むんじゃなくて、木の根っこや、苔が生えてる石など素朴で身近な風景を自分の心情に落とし込んで歌にする、というのが非常にわびさびというものを感じます。
パッと目が行きがちな派手な部分だけではなくて、地味で素朴なところに美しさを見出すという、中世日本の価値観をプレイヤーに紹介していて、わびさびの心を非常にわかってるなと感じました。
わびさびの概念自体が出てくるのは室町時代以降にはなるんですけれども。
蒙古軍の楽器
ここまで日本側の楽器を見てきましたけれども、このゲームでは蒙古軍の楽器も登場します。
そもそも日本に来た蒙古軍はモンゴル民族ではない、という話もありますが、このゲーム内の設定としては完全にモンゴル民族ということで描かれています。
太鼓
太鼓は蒙古軍の拠点で演奏しているところを見ることができます。
フレームドラムのような、胴が浅く、打面が大きいものです。
モンゴル民族の宗教はシャーマニズムを基礎としていて、モンゴルの太鼓は魂の乗り物であるといわれ、トランス状態を引き起こすのに重要な役割を果たしていると言われています。
蒙古の品としてゲーム内のアイテムとして入手することができます。
ホーミー
蒙古軍の拠点で太鼓の演奏と一緒に歌われているのがホーミーです。
実際に歌ってる姿というのはよく確認できません。
ホーミーとは特殊な発声方法で、通常の会話や歌とは全く異なる声を出すというものです。
ホーミーのようなサウンドは、このゲームのボスである、コトゥン・ハーンのテーマでも、うなりのような恐怖をあおるような音として使われています。
角笛。一番聴く音
おそらく、このゲームでプレイヤーが一番聞くことになる蒙古軍の音です。
戦闘の前や何か異変が起きた時に蒙古軍は角笛を鳴らします。
敵兵の心に不安や恐怖を打ち込むためにも使われていたと言われています。
ヤトガ
ヤトガは琴のような撥弦楽器です。
目的に応じてサイズ・調弦・弦の数が異なります。
これはアイテムとしては確認できましたが、ゲーム内のサウンドとしては確認できませんでした。
使われているのかもしれませんが、日本の琴と音がよく似ていて、区別が出来ませんでした。
馬頭琴
モンゴル民族の代表的な楽器である馬頭琴の音も、ゲーム内のどこかで聞いたような気がするのですが、もう一度見つけることができませんでした。
馬頭琴はモリンホールともいわれ、四角い共鳴箱、2本の弦から構成される擦弦楽器です。
2000年以上の歴史があるとされ、モンゴルで最も長い歴史を持つ楽器と言われています。
日本と蒙古兵の音楽の違い
蒙古を敵として悪者にするだけじゃなくて、日本と同じように文化を丁寧に調べてあり、モンゴルの文化へのリスペクトを感じました。
ここまでゲーム内の古代日本と蒙古の音楽を見てきましたが、日本の音楽と蒙古軍の音楽の違いっていうのがはっきりあって、
日本だと必ず一人で演奏して、合奏してる場面がないんですよね。
それに対して、蒙古軍は太鼓とホーミーを一緒に演奏したり、みんなで焚き火を囲んで盛り上がったり、角笛で連携をとったりと、一人で演奏したり、音を出すということがありません。
音楽の面からも、一対一で戦う武士と集団で戦う蒙古兵という対比を感じることができます。
日本にも雅楽や神楽などの合奏はあったと思うんですが、
それがゲーム内で無いことによって、よりはっきりと対比を感じることができます。
ゲーム内の音楽について
さてここからはゲームの演出としての音楽について研究と解説をしたいと思います。
作曲家は「ハンニバル・ライジング」「ニンジャアサシン」「47RONIN」など和風の楽曲も手がける
Ilan Eshkeri(イラン・エシュケリ)さん
「ゴッド・オブ・ウォー」「LOVERS」「陰陽師」等の音楽を手がけた
梅林茂さん
のお二人。サウンドトラックでは16曲がイラン・エシュケリさん、5曲が梅林茂さんとなっています。
spotifyなどでサウンドトラックが聴けます。
■Ghost of Tsushima (Music from the Video Game) | spotify
楽曲について全体的に
音数が少なく、わびさびを感じる楽曲になっています。
尺八、琴、三味線、能管、鐘、鈴など、日本の和楽器を中心に楽曲が組み立てられています。
映画のほうの作曲家がゲームの作曲をしているということで、特別なことのように思われるかもしれません。
日本だと映画の作曲家とゲームの作曲家は割とはっきり分かれているんですけれども、海外だと映画とゲームの作曲家はあまわかれていないので、そこまで特別なことではありません。
音楽については全体的に音数が少なく、ほとんどアコースティックな楽器のみで編成されていてわびさびを感じる楽曲となっています。
超低音のシンセベースなどはほぼ入っていないので、現代的な迫力はやや少ないかなと思います。
尺八、琴、三味線、能管、鐘、太鼓、琵琶、掛け声など
日本の和楽器を中心に楽曲が組み立てられています
特に尺八は主人公の境井仁が演奏するということもあって
境井仁そのものをあらわす音色として配置されているなと思いました。
また、琴はゆな、三味線は竜三など、ムービーシーンでは他のキャラクターにも楽器が割り振られています。
これは非常に映画的なアプローチだと感じます。
また尺八や三味線など、単独でメロディを奏でる楽器が主役になっているので、その後ろを支える伴奏もあまり厚くなく
ストリングスなど、オーケストラの楽器の個性が前に出過ぎないようにしてあります
西洋の楽器も入ってるんですけれども、基本的には和楽器が主役になるようにバランスされています。
また、プレイヤー側の音楽は一本芯が通った音楽になっているんですけれども、敵側の音楽はそれとは逆に
はっきりと主役がないような音楽になっています。
それによって一人ではなく大勢で襲ってくるような感じや、目に見えない恐怖や雰囲気をつくるという役割を担っています。
三味線について
僕が気になったのが三味線です。
三味線は江戸時代から登場する楽器です。
当然、この鎌倉時代には無かったものなんですけど、それはそれとして、太棹三味線ではない音に聴こえるのが気になりました。
現代では、特に戦闘シーンでは三味線が使われる場合、大体「太棹」の三味線なんです。
太棹の三味線とは、津軽三味線と言われるものですね。
三味線の中でも一番大きく、鉢で叩くように演奏して、力強い音を出します。
通常のゲームだと力強く太棹の三味線で演奏されると思うんですけど、
ゴーストオブツシマの戦闘曲ではおそらく中棹あたりの三味線か、そういった弾き方が使われていて、撥の激しいアタック音ではなくて、皮のほうのふくよかな音がよく聴こえてきました。
津軽三味線のようなくっきりと現代的な音ではなくて、皮の音がよく聞こえることで
懐かしい風情がある音色になっているなと感じました。
その辺りは近代に出てきた津軽三味線ではなくて、なるべく昔の三味線の音色に寄せよう
、という意図があるのかもしれません。
鐘や鈴の音について
お寺の鐘とか鈴のようなな音も楽音として取り入れられてますね
ただ鐘とか鈴は効果音を聞こえてしまう場面があってあまり良くなかったかなとは思います
敵を倒した時に鈴のチーンという音が鳴ってちょっとギャグっぽく感じたりとかしちゃいましたね
ライトモチーフについて
音楽の作り方としてはライトモチーフと言われるものが多く使われています。
ライトモチーフというのは、特定のテーマをもつ一節のメロディをいろんな曲に散りばめていく、っていう手法なんですね。
ライトモチーフを使うことによって、物語の接着剤になったり、
感情のトリガーになったりする音楽を作ることができます。
そうすることで、見ている人は、ストーリーを把握しやすくなったり感情移入をしやすくなったりします。
これは映画でよく使われている手法になります。
特に最初に、境井仁のモチーフと思われるものが6回以上出てきます。
最初に同じメロディーを使った楽曲を連続して出すことで、オープンワールドになって物語が散り散りになる前に、主人公の境井仁のモチーフ、一本の太い芯をプレイヤーに印象付けています。
ライトモチーフのほかにも起伏が大きく、スケール感があったり、映画のような音楽の作り方になっています。
切り貼り
次は音楽の使い方に関してなんですけれども、これは他のゲームもそうだと思いますが、ムービーシーンの時に場面に合わせて、映画のように音楽が切り貼りされて使われてます。
そうすることで少ない曲数で、多くのバリエーションの演出をすることができます。
これは映画というよりもテレビドラマでよく使われる手法ですね。
インタラクティブミュージック
フィールドの音楽には、インタラクティブミュージックという手法が使われています。
状況に応じてシームレスに変化する音楽の作り方やプログラムのしかたです。
音楽をいくつかのブロックに区切り制作してあり、再生する順番を変えたり状況に応じて
変化させることによって、音楽がより複雑になり、実際に作られている曲数よりも多く感じたり、状況と場面の盛り上がりが一致したりします。
インタラクティブミュージックは戦闘だけではなく、集落の音楽などにも使われていて
集落に入った時の音楽が毎回変わったり、長く滞在している時でも音楽の繰り返しを感じさせないことによって、マンネリや時間経過を感じさせないようになっています。
第六感の音楽
敵や場所が見えてくる前に音楽が鳴り始めるんですね。
そうすると、目で見えてないのに気配で敵がいるな、とか、何か神聖な場所があるな、っていうのを感じるんですよね。
目で見る前に、音楽で流れてくることによって、第六感で何かを感じ取ってるような気持ちになります。
この体験は気持ちがいいですね。
てっぺんに到達すると…
あと粋だなと感じたことがあるのですが、
五重塔のてっぺんに上ると兵具が手に入るんですね。その時に音楽が壮大な音楽に切り替わるんですよ。
「せっかく登ったんだから、この景色を楽しんでいってくれ」という開発者のメッセージを感じました。
おわりに
以上でゴーストオブツシマの音楽の研究解説を終わりたいと思います
今回鎌倉時代の音楽を色々と調べたんですけれども、歴史上の音楽の空白部分になっているなと感じました。
平安時代までは資料があるのに、鎌倉時代を通り越して、室町時代からまた資料が出てくるという楽器や音楽が多かったです。
例えば尺八も、鎌倉時代の細かい資料がなかったんですよね。
なので、今回推測で語ってしまったことも多かったかなと思います。
ともあれ読んでいただきありがとうございました。
ではまた!