台本から舞台の劇伴を作るには?(業務用)

テクニック

作曲家のこおろぎです。

今回は台本から舞台の劇伴を作る方法について書いていきます。

ここでの劇伴というのはお芝居の後ろにつける音楽のこと。

台本から音楽を作るというそのものだけではなく、舞台制作の一連の流れを説明します。

そのほうが台本へのアプローチ方法や理解度が高くなるからです。

そのため、かなり業務的な内容も含まれています。

この方法は僕が人から教えてもらったものではないので、人によってまったくやりかたが違うとは思います。

さらに作品の内容や演出さんによってもやり方が違ってきたりするので、今回はなるべく平均的で大まかな流れを書くようにします。

スケジュール

まずは舞台の劇伴制作の おおまかな流れ、スケジュールです。

初演から逆算して考えていきます。

・台本をもらう(2ヵ月~1ヵ月半)

最初に台本もらいます。

僕が関わる舞台の場合、だいたい2ヵ月から1ヵ月半くらい前です。

今回はできている台本が最初に手元にくるという場合の話をします。

・打ち合わせ(1ヵ月半~1ヵ月)

主に演出さんと打ち合わせをします。
プロデューサー、制作進行、演出助手の方が同席したりします。

台本があったら一通り読んでみて、気になった部分を質問します。

音楽がつくかつかないかが分からないところなど。

例えば

「台詞の中で鼻歌のようなところがあるんだけれども、そこは音楽がつくんですか」

「ダンスの曲が入ってるんだけれども、最初に音楽を作っておくのか既存の曲をベースにして振りをつけてから差し替えるのか」

「ト書きでこういう風に書いてあるんですけれども、どのくらいの尺の予定ですか」

そういうことを質問します 。

後はどういうサウンドとか雰囲気がいいのかのような全体の話。

・音楽がつきそうなところをメモ(1ヵ月半~1ヵ月)

台本を読みながらNotionに音楽が付きそうなところをメモしていきます。

・Notion

「何ページこのセリフからこういう曲をつける」のように。

この時、自分で台本のここに音楽がつくだろうというのをメモはするんですが、実際に音楽が使われる場所は全く違ったりします。

実際に音楽をつける場所は基本的に演出さんや選曲さん、演出助手さんが考えます。

ここのメモはただ自分の想定でしかありません。

極端な話「どこかで使われそうな悲しい曲を作ろう」のように、台本を見ずに作ることもできます。

僕の場合は最終的に想定した場面で使われなくても、台本に合わせて作ります。単純にその方が作りやすいから。

メモをする時に重要度も一緒に付けていきます。

僕の場合は星マーク5段階(★★★☆☆)で重要度をつけていて、

星が多かったら早めに提出する、星が少なかったら後回しでいい、というふうにしています。

Notionへのメモは僕にとってかなり大切で、

劇伴制作は曲数が多いし、期間も1ヶ月ということで短い。リストで管理して曲の抜け漏れをなくすのがひとつ。

また、1日で数曲を作る時には気持ち的にしんどいこともあります。

その時に、notionに「この曲はちょっと終わった」とか「この曲はそこそこ終わった」とか「この曲は完成しました」とかそういうふうに タグをつけることで作業が進んだ感じが出て、

ゲーム的な感じでモチベーションが高く維持できる。それもひとつの理由です。

・重要な音楽から作っていく(1ヵ月前)

テーマ的な曲や、音楽が主導して進んでいくような場面の曲から手をつけていきます。

重要でも稽古が始まってからしか作れない音楽があったりするので、そこは流れを見ながらどの曲を優先するかを決めていきます。

全体の稽古自体は大体初演の1ヶ月ちょっと前くらいから始まります 。

大体打ち合わせをしてから少し後に始まることが多いかなと思います。

・バランス良い曲数が揃ったら演出に送る(1ヵ月前~)

何曲か揃ったら演出さんに送ります。

楽曲の送り方も人によってマチマチだと思うんですが、

まあ僕はある程度バランスよく揃えて送ることが多いです。

例えばメインテーマがあって、しんみりした雰囲気の曲があって、戦闘の曲があって、明るい曲があって、のように。

全然雰囲気の違うものを混ぜて送ることが多い。

振り幅や全体のイメージを掴んでもらうという狙いです。

音響さんが入るまでは本格的に音楽はつけないことが多かったりするので、
それまでは雰囲気を聴いてもらうという意味もあります。

台本を見て作ったら、あとは稽古を見ながら「ここの音楽が足りなそうだな」という時に追加で考えて送っていきます。

そうして、音響さんが入るまでに自分の考えた音楽をひととおり送ります。

・音響さん(選曲さん)が来てから指示通り作る(2週間前~)

音響さんが入るのが2週間くらい前。ここからは詰めの段階ですね。

そうすると、きちんと音を鳴らしながら稽古が進んで選曲がまとまっていくので、

「こういう曲が欲しいです」とか「こういう展開にしてほしいです」というオーダーが来るようになるので、そのオーダーをもらって作ります。

選曲を誰がやるのかは作品や座組みでバラバラだったりするので、
演出さんや演出助手さんがやって、音響さんが入る前からオーダーをもらったりもします。

・音楽を仕上げていく(1週間前~)

選曲のオーダーと平行して確定した音楽を仕上げていきます。

奏者さんに演奏を入れてもらうのもこのタイミング。

・マスターデータ提出(3、4日前)

稽古が終わって場当たりが始まる前にマスターデータを提出します。

これが舞台初演の3日か4日前くらい。

そこで基本的に作曲家の仕事はほとんど終了です。お疲れ様でした。

で、実際に舞台に足を運んでゲネや初演を見て、「ここのバランスが悪かったな」とか「この音いらんかったな」とか思ったら後で修正したデータを音響さんに送ります。

ただ、修正のデータが多くなりすぎると音響さんの方でもミスが起こりやすくなると思うので、なるべく後出しでは送らないようにします。

どうしても気になった部分だけにします。

・終了

これで終了です。大体の流れは把握できたでしょうか。

本当に現場によって違うので、ケースバイケースの対応にはなると思うんですが、少しでも参考になればなと。

どこに音楽がつくのか

台本を見ながら音楽をつけるといっても「どこに音楽をつけたらいいの?」と最初は思うはずです。

特にはじめての場合は最終の形がどんなふうになるのかが全く想像できないので。

まずは、絶対に必要なものや重要なもの、作りやすいものから手をつけて、だんだん穴埋めをしていくようにすると作りやすいです。

さきほどNotionに書いた重要度の高いものから作っていくようにします。

■重要度の高いものをざっくり並べると

1.メインテーマ

2.ト書きにある曲(音楽主導)

3.ト書きにある曲(BGM)

4.大きく感情の動く曲(物語のハイライト)

5.汎用的な曲(含みのある曲)

6.感情のグラデーションの間の曲

7.汎用的な曲のバリエーション

8.ピーキーな曲

もちろん前後する時もあるんですが、だいたいこの順番で作っていきます。

1.メインテーマ

まずはメインテーマ。

主題歌が別にあってメインテーマがない場合もあるんですが、

メインテーマある場合は、音楽と役者の動きだけのオープニングがあったりします。

2.ト書きにある曲(音楽主導)

つぎにト書き(台本内)に書いてある曲で、音楽主導で進んでいく場面。

イメージシーンやダンスシーンです。

ここは先に音楽がないと演出がつけられなかったりするので優先的に作ります。

3.ト書きにある曲(BGM)

演技の後ろで流れる劇伴もト書きに書いてあったりします。

「音楽流れる」とか「音楽強くなって終わる」のような。

ここも絶対に使う曲なので優先的に作ります。

↑ここまでは絶対に必要な音楽。

———————–

↓ここからは絶対に必要ではないんだけれども、重要そうな場面の音楽です。

ここからはつける場所や、どういう音楽なのかを自分で考えることが必要になるので難しくなってきます。

ここでミスると、作ったけれども最終的に使わない音楽が出てきます。

4.大きく感情の動く曲(物語のハイライト)

だいたい、感情が大きく動く所は実際に音楽がつくので、物語の中で最も盛り上がる部分をピックアップして音楽をつけます。

登場人物の感情が高ぶっていたり、観劇する人の感情が大きく揺さぶられたりする場面。

逆に、あまり感情が動かないところは、場面としても音楽の内容としてもそこまで重要ではないので後回しにしていいです。

台本を読んで感情が大きく動いてるなというところをメモします。

・何かを達成して喜ぶ
・誰かが死んで悲しい
・お互いの感情がぶつかり合う
・物語が転換する

そういうところを一通り書き出した後に、

「この音楽なら複数のシーンにも使えそうだな」とか
「この音楽を長い時間流していても成立するな 」

という曲を優先していきます。

大きな面積を占めるところから作っていくイメージ。

そうすることで少ない曲でも全体の完成度が早く高まっていきます。

無駄になる曲を作らないというのも大事です。

役割が被ってる曲とか、汎用的じゃないから使いにくいという曲をなるべく作らない。

基本的に自分の考えているところと、演出さんや演出さんが音楽を付ける所は全然違うと思っていいです。

なのでその場面だけにのめり込んで、その場面にしか使えない曲をつけちゃうと、他の場面に使えなくて曲が無駄になっちゃうということもある。

舞台の選曲をする人って音楽家にすごく気を遣ってくださるんですよね。

使わない曲が出た時にあのすぐ申し訳なさそうにされます。

「使わなくてすいません」と謝られたりするんですよね。

こっちとしては台本を見て勝手に想像して作っているだけなんで、使わなかったら使わないでいいですよという気持ちなんですが。

もしかしたら使いにくい曲を無理矢理使って下さってるのようなことも あるかもしれない。

そういうことがあるので気を遣わせないためにも無駄な曲を作らないようにしたい。

もちろん無駄な曲を書くと、自分の作業量も無駄に増えるのでよくないんですが。

感情が大きく動くシーンで使う曲という意味では、メインテーマのピアノバラードバージョンやギターバラードバージョンを作っておくと使い勝手が良くて、大体使わないということはないですね。

とりあえずそこから作ってみるのもいいと思います。

5.汎用的な曲(含みのある曲)

感情が大きく動く所を作ったら、逆にどんな感情でも幅広く対応できる汎用的な曲を作ります。

とりあえず流しておけば間が持つ曲ですね。

これも面積を大きくとるという点ではやめに作っておきます。

なんとなく不安な音楽、なんとなく切ない音楽、
なんでもない日常のゆったりした場面とか、少しだけコミカルな音楽。

音楽自体では感情をつけすぎないようにして、色々な感情が乗りやすい曲にします。

技術的なことだと、メロディやコード進行、リズムなどをあやふやにする場合が多いです。

パットだけで作ったなんとなく暗い曲のようなのも1曲くらいあると使い勝手がよいです。

6.感情のグラデーションの間の曲

ここまでで、物語の大きなところを押さえて7割くらいはできたかと思います。

ここからは更に細かいところを埋めていくようなイメージ。

最初に感情が大きく動く場面の曲を作ったんですが、その感情のグラデーションの間の曲を作っていきます。

感情の解像度を上げていくイメージ。

作品によってもだいぶグラデーションの幅が違ったりはするんですが。

4でメインの悲しい曲を作ったとして、

もっと絶望的に悲しい音楽とか、滲み出るような虚無感のあるような悲しさとか、

そういう風に、どのシーンに使うのかというのを想定しながらグラデーションを作っていきます。

4で作った悲しい曲を他の悲しいシーンに当ててみて、あまり合ってないなと思ったら新規に作る、という感じでもいいですね。

7.汎用的な曲のバリエーション

同じような汎用的なシーンが何回も続く時に味変をする曲を作ります。

例えば、「日常が来て日常が来て日常が来る」とか「シリアスが来てシリアスが来てシリアスが来る」のような場面。

楽器を変えたり、リズムを変えたりするとメリハリがつきやすいです。

このパートは感情のグラデーションの方とも結びついてもきます。

ここでは区別しているんですが、実際にはそれぞれの楽曲の役割は混ざります。

作品ごとに臨機応変に対応していくという感じですね。

8.ピーキーな曲

最後や時間が空いている時にピーキーな曲を作ります。

「絶対にここの場面のここでしか使わないだろう」という曲です。

パロディ曲など。

最後の方まで作らなくても稽古にほとんど影響がない場合も多かったりするので、後回しにします。

——————————–

という感じで、状況に応じて前後はしたりするんですが、こういう優先度です。

早めにあると助かる曲、修正がしやすい曲、作品の方向性を決めるような曲から先に作っていくということですね。

音楽を送る時には

音楽を送る時なんですが、曲名は雰囲気の名前にします。

悲しい音楽だったら「Sad_1」
バトル曲だったら 「Battle_1」
相手に立ち向かう時の音楽だったら「Brave_1」

それを番号をつけて「Sad_1」「Sad_2」のような。

シンプルな雰囲気の名前のほうがパッと見で内容の想像がつくので選曲がしやすいはずです。

「ここのページのここの音楽を想定しました」のような説明や曲名にしてもいいかもしれないんですが、

よっぽどそのシーンに合わせた音楽を作ったのでなければ、指定をなるべく入れずに送った方が、バイアスがかからずに演出家さんの思い通りに音楽をつけることができるかなと思います。

こおろぎ流劇伴のつくりかた

ここからは、実際にどうやって音楽をつけていくかという話をします。

他のかたがどうやって音楽をつけてるのかが全くわからないんですが、

僕がやっているのは

「徹底的にお膳立てをする」こと。

僕は想像するのが苦手なんですよね。

だから可能な限り実際の舞台の状況に近づけて音楽を作っていきます。

そのために、まず、部屋を暗くします。

そもそも舞台って暗いじゃないですか。

明るい部屋で作っていたら実際に流れてるシチュエーションと違うわけですよね。

だからまず部屋を暗くします。で、間接照明をつけます。

そうすることで、部屋が舞台に近くなる。それが第一段階。

次に台本を読みます。

音楽をつける場所の台本読んでDAWに録音します。

読むというか、きちんと演技をします。

ここで演技の手を抜いたら、テンポ感や温度感が変わるので本気で演技をします。

そして、録音した音声を流しながら音楽を作っていきます。

セリフは音楽と一緒に書き出さないように注意しましょう。

サブミキサーにルーティングしてミックスダウンで混ざらないようにしておくと事故を防げます。

稽古が始まったら稽古映像がもらえるので、その稽古映像をDAWに貼り付け、
役者さんの声も当てながら音楽を作っています。

部屋も舞台みたいに暗くして、演技の声も入って、稽古の映像も流れて、かなり実際の舞台の状況に近くなる。

お膳立てをして作ると、合ってない音楽を作った時にすぐわかるんですよね。

後はセリフを流しながら音楽を作ることで、音楽がしゃべりすぎることを防げます。

音を入れすぎてセリフが聞こえにくいとか、前に出て来すぎるとか、そういうことも防げます。

僕はこれを全曲やっています。

1日に5曲とか作らないといけない時もきちんとセリフを入れて、稽古があるんだったら稽古の映像を入れて、部屋も暗くして、きちんと1曲お膳立てして作ります。

その方が悩む時間が少なくなるので、結果的に早く曲が作れます。

尺も分かりやすいですしね。

で、作った曲が選曲をされて実際のシーンについた後には

そのシーンに合わせて尺だったり雰囲気だったりをブラッシュアップしていきます 。

ただ、ブラッシュアップするにしてもなるべく変更点は少なくする。特に音楽のはじめのほう。

公演直前になったタイミングで音楽の入り方が違う、とかそういうことになると役者さんが戸惑う可能性もあるので。

ブラッシュアップはニュアンスをちょっと変えるとか、尺を少し伸ばす、とかその程度にしておきます。

舞台は役者さんが聞きながら演技をするという特徴があるので、余計なことをすると役者の方に負荷がかかって、演技に影響が出たりする、ということがあるかもしれないことを考えなければいけません。

だから、なおさら初稿が大事になってくるので、最初に可能な限りお膳立てをして作り、あとからの修正が少なくなるようにした方がいいんですよね。

おわりに

今回は台本からの舞台劇伴の作り方でした。

全体のスケジュールと、重要なところから作っていくというところと、こおろぎ流の作り方でした。

僕自身も以前台本だけ渡されて、台本から音楽を作ることが全くできなくて、
それで非常に悔しい思いをしたという経験があります。

なので、今回誰かの助けになるといいなと思い書いてみました。

思いのほか業務用な内容になってしまいましたが…

では。

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