全力でDTMのレッスンをしてみました。スマホゲーム戦闘曲の場合。

テクニック

依頼者の1曲をこおろぎが全力でレッスンするシリーズ。

こちらが今回レッスンする曲。

曲名「スマホアプリ通常バトル」

 
依頼者は、趣味で作曲されている「ユーリ」さん。

ユーリ
「スマホアプリで使われるような戦闘曲をイメージしています。

DAW上で聴く分にはそこそこ音圧もあるように聞こえるのですが、インターネットにアップロードしたものを他の人の曲と聴き比べるととてもショボく聞こえてしまうのが悩みです。」

ゴール設定

まずはゴールを明確にし、どう修正すべきかを浮き彫りにします。

「スマホアプリの戦闘曲」ということですが、もっと細かく設定や雰囲気を考えます。

現代なのか、ファンタジーなのか、SFなのか。どのシチュエーションで使われるものなのか。

聴いた感じだと、下記のような雰囲気、イメージなのかなと思いました。

・通常戦闘
・ファンタジー
・物理的な武器が多い
・強い
・激しい

具体的には、「ファイナルファンタジー レジェンズ 時空ノ水晶」の戦闘曲のようなイメージですね。

スマホのスピーカーは小さく、イヤフォンをするときも外の音が大きい場合が多いので、複雑になりすぎず、粒立ちをはっきりと、楽器の分離感を出して各音が聴き取りやすいように。

というのがスマホ戦闘曲を作る上でのポイントになってきます。

全体的な所感 | モニター環境に問題がありそう

・音色の選び方がよくない
・ドライすぎる
・音がダンゴになっている(分離感がない)

と感じました。

音がダンゴになっていると、マスターの周波数は見た感じ問題ないのに、各楽器がよく聴こえない、迫力のない音になりがちなんです。

「DAW上で聴く分にはそこそこ音圧もあるように聞こえるのですが、インターネットにアップロードしたものを他の人の曲と聴き比べるととてもショボく聞こえてしまう」

ということなので、スピーカーなど、リスニング環境に原因がありそうな気がします。

それで、音色やミックスが詰めきれてないのかなと感じました。

和声や編曲についてはほとんど問題ないですね。

リスニング環境の確認 | なるべくスピーカーでミックスを

ユーリさんの機材を確認。

・オーディオインターフェイス MOTU 『896HD』

MOTU 896hd

・スピーカー FOSTEX 『PM0.4n』

・ヘッドフォン SONY 『MDR-7506』

それぞれの機材の質は申し分ないと思います。

普段はヘッドフォンのみで作業をしている、ということですが、なるべく基本はスピーカーで作業し、ヘッドフォンは細部の確認に使うようにしたほうが良い結果になりそうです。

住宅事情もあるかと思いますが、どこかで必ずスピーカーで確認する場面を作りたいです。

ヘッドフォンは、ノイズなどの細かい部分のチェックには向きますが、リバーブの残響などが見えづらい、というのと、ダイナミックレンジが広くないので、音量の変化がわかりづらく、分離感も良すぎるので、ミックスのバランスが取りづらいです。

スピーカーでミックスしたものはヘッドフォンで聴いてもバランスが変に感じることは少ないんですが、ヘッドフォンでミックスしたものはスピーカーで聴いたときにバランスが悪くなる時が多いです。

各パートについて

リード | 何の音かよくわからない

Lead

リードの音は「何の音かよくわからない」というのが問題ですね。

ギターなのか、ヴァイオリンなのか、シンセなのかわからない。特徴がない、ぼんやりとした音。

リードはオケとは違ったトーンカラーで、エッジを効かせて特徴的にしたいです。

どういうかっこよさを聴かせたいのか、はっきりと。

00:40~のオブリガートは対位法的で美しいですね。

ギター | 問題なし

realGuitar

音色はMusicLab『RealStrat』。

パワーコード中心のバッキング。

01:03あたりの音使いがかっこいい。

重心が低くなり、ヘヴィに感じるキーを選んでいます。

しかし、それにしては腰高に感じてしまう。これは、打ち込みギターの難しいところですね。

あとは、音が浮いているような感じがするので、もう少しなじませたい。

ベース | キー選びがよい

Bass

音色はSpectrasonics『Trilian』。

これも、最低音Dの、重く響くキー設定。

ほとんどがギターとのユニゾンでルート音。特に問題ないパートですが、たまにスライドなどを入れて表情をつけたい。

コーラス | オープンボイシング

chorus

音源はEast West 『Quantum Leap Symphonic Choirs』

オープンボイシングのコーラス。

こういった曲の場合はクローズにして、他のパートとの分離感を出してもよいかなと思いますが、そのあたりは好みですね。

前半の部分にしか入っていないので、コーラスが入っている部分だけ全体の音量が上がってしまうのが気になります。

ドラム | 音選びと音づくりが問題

音源は『Addictive Drums』

XLN Audio Addictive Drums 2 ソフトウェアドラム音源 スタンドアローン/VST/AU/AAX対応

この曲の一番の問題点はドラムの音選びと音づくりです。

中低域が強い音作りなので、他のパートとの分離感が出ていません。粒立ちがよくレンジ感が感じられる音選び、音作りを目指したいです。

あとは、アタックが「点」になっているので、もっと音圧を感じられる「面」になるようにしたい。これはエフェクトで調節していきます。

フレーズは、0:40あたりのシンバルの連打が気になります。

通常ではありえない、というツッコみは置いておくとしても、クラッシュシンバルの音色を使いすぎると他の場所でアクセントとして機能しなくなるので、ライドあたりに置き換えたいところです。

あとは、クラッシュシンバルとハイハットを同時に叩いているところは、シンバルの明瞭感を損なうので抜いておきたい。

修正してみました

make

なるべく同じような条件で直しました。

全体 | ゲーム用に設計する

繰り返しになっているところはバッサリカットして、最後から最初に違和感なく戻るよう、ループ処理をしています。

最後の部分はフェードアウトになっていましたが、冒頭に繋がるように処理したおいたほうが、そのまま組み込めるので、ゲーム用に使い勝手がいいかと思います。

単純な繰り返しはデータ量が増えるだけであまり意味がないので、あまりやらないようにします。どの状況においても、ゲーム音楽のデータ量はできるだけ少ないほうがいい。

与えられている時間が多かったら、展開を増やしたりして、意味のある時間の使い方をします。

音楽が使用される状況を考え、きちんと設計することが大切です。

また、テクニックの一つとして、不自然にならないよう、ループで切った後ろの部分の残響をトラックの頭に張って、ループで戻る部分のつながりをなめらかにしています。

loop

リード | はっきりした音色に

前半はソロヴァイオリン、中盤の下パートはソロチェロ、後半はシンセリードで、それぞれ音色や鳴らしかたをしっかりわけて展開を作ります。

00:08~ ヴァイオリンのパート。
Vin

フレーズはそのままで、1オクターブ下げて力強さを出しています。

ボリュームやモジュレーションで変化をつけたり、奏法を分けたり、スピッカートの音色を重ねたり、強く弾くところはピッチを上げめに入ったり、下のピッチからしゃくりあげたりして可能な限り歌わせています。

00:37~ 中間部のオブリガートはチェロの音色で。
Cello

フレーズはそのままですが、表情をつけることでかなり弾いている感じが出たと思います。

逆に、00:51~のシンセリードはシンセらしくベタ打ちです。最後だけ特徴的なグリッサンドを入れてシンセっぽくしています。

00:51~音量的にも寂しかったのでヴァイオリンとチェロのユニゾンで主旋律のオブリガートを入れました。

ヴァイオリン、チェロの音源はAudiobro『LA Scoring Strings』、シンセリードはWaves『Element』。

余裕があれば、ヴァイオリンだけ生で弾いてもらってもいいですね。打ち込みだと限界があるので。

ギター | ほぼそのまま

もとのMusicLab『RealStrat』を書き出した音をそのまま使いました。この音源ははじめて触りますがなかなかよいですね。
ちょっとだけカットのEQをかけただけでほとんどそのままです。

最初のリフの部分はセンターだけだったのですが、途中で急に左右にパンが振られるのに違和感があったので、ダブリングして最初も左右2本にしました。

ベース | ニュアンスをつける

Bass2

フレーズはあまり変えず、グリッサンドやスライドなどのニュアンスをつけました。

IK Multimedia『MODOBASS』で鳴らしています。

コーラス | ほぼそのまま

どう扱うか悩んだのですが、

フレーズはほとんどそのままで、音色は『Omnisphere』で固めのコーラス音を選びました。

生っぽいコーラスだと曲に対して柔らかすぎるかな、という判断です。

バランスとしては、大きすぎると他のセクションの音量と合わなくなるので、
うっすら雰囲気が出る程度で混ぜています。

ドラム | パーツごとに処理して分離感を出す

今回の一番のポイント。

音源は『SUPERIOR DRUMMER2.0』で置き換えていきます。
Superior Drummer 8

まず、細かい打ち込みを直していきます。

各展開にメリハリをつけるため、フィルをはっきりと入れるようにしました。

00:01~はハイハットの細かい動きで表情をつけています。

00:07~のフィル。ギターのリズムに合わせています。

Drum2

00:09~基本パターンのキックのベロシティは、3拍目を弱くしています。

Drum4

連打するときは、1打めは助走のつもりでつけるといい、らしい。

00:37~クラッシュシンバルの刻みをライドシンバルに。キックも細かすぎるので音数を減らしました。

全体的にベロシティも上げました。この曲調なら、SD2.0の場合ほぼMAXくらいでちょうどよいです。


 
エフェクトについて見ていきましょう。

分離感を高めたい場合は、きちんと個別に処理していくことが大切です。

全体のエフェクトはこんな感じ。

Drum

1つづエフェクトを書きますが、音源や音色、曲によってかけ方は全く違うと思いますので、意図だけ把握して、参考程度にしてください。

今回は意図をわかりやすくするため、なるべくシンプルにエフェクトをかけています。僕自身も最近はNeutronで処理したりしています。

SUPERIOR DRUMMER2.0の音は多少作りこまれた音なので、あまり積極的にエフェクトはかけないのですが。

キック | アタックを出して余韻を切る

コンプレッサー 『StudioOne付属コンプ』

少しアタック部分を出して、余韻を切るイメージ。

KICKCOMP

イコライザー  Waves 『H-EQ』

低音とアタックを強調。

KICKEQ

スネア、タム | 音づくりのコンプ

コンプレッサー Native instruments 『VC76』
アタックを少し潰して荒々しく。音づくりのコンプ。

SNCOMP

イコライザー  Waves『H-EQ』

アタックとスナッピーを強調、低音はカット。オーバーヘッドマイクにスネアの低音のアタックがあるので、そちらに任せる。

SNEQ

ハイハット | アタックを少しだけ整える

コンプレッサー Native instruments『SOLID DYNAMICS』

アタックを少しだけ整える設定。

HHCOMP

イコライザー  Waves 『H-EQ』

HHEQ

オーバーヘッド | アタックを整える

コンプレッサー Native instruments『VC76』

OHCOMP

イコライザー  Waves『H-EQ』

OHEQ

ドラムバス | まとまりを出す

コンプレッサー Native instruments『Solid Bus Comp』

アタック遅め、リリース遅めの、音をまとめてリズムを出す設定。

BUSCOMP

イコライザー  Waves 『H-EQ』

アタックの帯域をほんの少し出しています。

BUSEQ

ディエッサー Sonnox『Oxford Supresser』
シンバル、ハイハットの飛び出ているところを抑えるディエッサー。

BUSSup

リバーブ | 各トラックをなじませる

リバーブ Sonnox『Oxford Reverb』

ドラムとベース以外の全トラックにホール系のリバーブをつけています。リバーブ音が主張しすぎず、全体をなじませるイメージです。

REV

バイオリンとチェロにはディレイを少しだけかけて厚みを出しています。

ディレイ Native instruments『Replika』

Rep

まとめ

今回のほとんどの問題は音づくりとミックスでした。

実は、最近の楽曲と古い楽曲って、音色の違いが一番大きいんですよね。楽曲の構造自体はそんなに進化していないんです。

ということは、音選びと音づくりがよくないだけで、一気に曲が悪くなる。

僕もそこまでミックスが得意かと言われるとそうでもないのですが、直したものと元のものがあまり変わらないように感じるのであれば、ほんとうにモニター環境を考え直したほうがよいかなと思います。