「2MIXしたカラオケで納品」という編曲(アレンジ)の案件がぼちぼちあるのですが、すっごくもったいないなーと思ってます。
なぜかというと、パラデータ納品からボーカルを録音、ミックスする場合に比べ、ほぼ確実に完成する音源の質が下がるから。
時間があったり、ある程度関係が築けている方にはパラデータ納品にするよう提案しているんですが、納期が短かったり、ほとんど面識がない方だと口を出せないので、ブログを書くことで少しでも理解して貰えたらなあと思いました。
もしかして、ニコニコ動画で「歌ってみた」を歌ってきた方は、出来上がっているカラオケとボーカルをミックスするのが当たり前で、そもそもパラデータからミックスするということを知らないのかもしれないですね。
ということで、話の中心になる用語をちょっと解説。
2MIXしたカラオケとは
ボーカル以外の音をミックスしてあるステレオのオーディオデータ。オフボーカル。
「カラオケ」だけでもいいんですが、よりわかりやすいように「2MIXした」ということをつけ加えています。
ファイルは1つだけ。
このファイルに書きだしたあとは楽器ごとの細かい調節はできません。
パラデータとは
カラオケの元になる、1曲を楽器パートごとにバラバラにしたオーディオデータのこと。ファイルは複数になります。
楽器ごとに音量を変えたり、音を加工したりということができます。
パラデータならカラオケからのボーカルミックスよりも自由度が高く、最終的な楽曲の質が上がりやすいんです。
予算がなかったら、最後のミックスまで編曲側でやらせてください
予算がないので、泣く泣くカラオケからのミックスにしている場合もあるかと思います。
そういう時は、ボーカル録りをしたあと編曲家にボーカルデータを送ってもらって、編曲家がミックスをしたほうがまとまりがよいものになると思います。
そうすれば、カラオケとボーカルをミックスする場合と値段はほとんど変わらず、質もあげることができます。
・編曲家にボーカルデータを渡していただいて、編曲家がミックスまでやる
・パラデータをお渡しして、エンジニアさんがミックスする
このどちらかにしたほうがいいということ。
料金的にはもちろん「パラデータをお渡しして、エンジニアさんがミックスする」ほうが高くなりますし、音もよい可能性は高いです。
ミックスまではできない、という編曲家さんももちろんいます。
エンジニアさんに聞いてみた
カラオケとボーカルだけのミックスって、作品の質が落ちる上に、編曲した側のミックスも含めてエンジニアさんの仕事ということでクレジットされてしまうかもしれない。
なので、エンジニアさん側もよくは思ってないんじゃないかなと考えていて、気になったのでエンジニアさん側のご意見も聞いてみました。
答えて頂いたのは北吉 泰輔さんと、上原 翔さんです。
質問はこちら
質問1 カラオケとボーカルをミックスするお仕事をしたことがありますか?
質問2 やるとしたら、パラデータからのミックスとくらべて金額は大きく変わりますか?
質問3 そのお仕事のクレジットに自分の名前がエンジニアとして表記されることについてどう思いますか?
質問4 その他、カラオケとボーカルをミックスすることについて
北吉 泰輔さんの解答
北吉 泰輔
2004年より都内スタジオにてキャリアをスタートさせる。
劇伴、アーティスト、CM、アフレコ等、さまざまな現場での経験を生かし、4リズム以外にもオーケストラから和楽器までの幅広い楽曲に対応する録音技術をもち、アーティストに寄り添った作品作りには定評がある。
■連絡先 info@futen-sound.com
質問1 カラオケとボーカルをミックスするお仕事をしたことがありますか?
あります。
質問2 パラデータからのミックスとくらべて金額は大きく変わりますか?
大きくは変わりません。ですが、曲の規模や編成・作業量などによっても変わってくるので一概には言え
ません。
質問3 エンジニアとして表記されることについては?
カラオケの出来次第では、クレジットされたくないと思う場合もあります。
質問4 その他
トータルのクオリティを上げるなら、基本的にパラデータからのミックスが必要です。
オケ内だけでなく、歌とそれぞれの楽器とのバランスの調節だからです。
オケに対する歌の質感・歌に対するオケの質感の両目線から曲のバランスを完成させます。
アーティストからのイメージを受けて、「どうしたいか」を受け止めた上でミックスを変えていくのです。
ミックスによってサウンドの方向性を全く変えることができるので、エンジニアにミックスを依頼するのであればパラデータでいただきたいです。
■パラデータのオケでできること・可能性の広さ
楽曲やアレンジを聞いて、それぞれの楽器や歌の質感について、曲が望んでいる・格好良くなるミックスに仕上げる事ができる。
■2MIXのオケのデメリット
オケが2MIXだった場合は、その楽曲に対してのミックスのアプローチが、歌に
対してしか出来ない。
例えば、曲やアレンジの雰囲気に合わせて歌のリバーブを深く広くしても、オケの2MIXの各楽器に対する調整ができないので、オケの雰囲気に寄せること
になる。大幅なミックスの変更や遊びは不可能になる。
■2MIXのオケのメリット
作業量があまりないので、歌が何十トラックもある等でなければ エンジニアの仕事は楽になる。
ただ、ミックスの幅が狭くなるので、要望通りに雰囲気を変えるには限界がある。
上原 翔さんの解答
上原 翔
1982年生まれ。滋賀県出身。フリーランス。
JABBERLOOP、fox capture plan、toconoma等の若手ジャズアーティストを数多く担当。
また、Every Little Thingや報道ステーションスポーツコーナーのテーマソングやテレビの劇伴まで、
ジャンルを問わず幅広く手掛ける。
fox capture plan 3部作「Underground」「Covermind」「BUTTERFLY」は、
JAZZ JAPAN AWARD 2015アルバム・オブ・ザ・イヤー ニュージャズ部門を受賞。
独創的なエフェクトの使い方、疾走感のあるミックスには定評がある。
■Twitter @upopo_sho
■Web http://shouehara.net/
質問1 カラオケとボーカルをミックスするお仕事をしたことがありますか?
最終的なミックスでカラオケとボーカルをミックスするというのはありません。
Rec時はオケのアレンジ等がまだ途中という事で仮2MIXカラオケで歌を取り、それをラフミックスするというのは結構あります。
質問2 パラデータからのミックスとくらべて金額は大きく変わりますか?
歌の直し量にもよるんですが、パラデータからミックスする時間的に半分以下にはなるので、
パラデータミックスよりも半額くらいにはなると思います。
質問3 エンジニアとして表記されることについては?
自分の名前がエンジニアとして表記されることは全然構いません。
質問4 その他
基本的には、カラオケとボーカルをミックスする仕事はしないと思います。(もちろん内容によりますが、、)
というのも、通常ミックスってメインとなるボーカルの質感に合わせてオケのバランスや質感を調整しないと良いミックスにならないんですが、2MIXされたカラオケだと、そのバランスや質感を調整出来る自由度があまりに低いからです。
オケだけを先に音作りしてしまうと、後でボーカルを合わせた時に質感が合わず、無理矢理ボーカルの質感を変えざるを得ない事になるんですが、これだとメインであるはずのボーカルの音質やバランスが良くないなんて事になりがちです。
ミックスのやり方の基本としては、ボーカルを常に出しつつ、ボーカルが一番聞こえやすいようにオケのバランスを調整していきます。
オケが2MIXだと、どうしても2MIX全体でEQやコンプするしかなく、歌の質感に合わせきれない事が起こり得るかと思います。
バランス面だと、そのカラオケ2MIXが歌を入れる音質的なスペースが無いなんて事も考えられます。
そういった事から、2MIXのカラオケとボーカルをミックスというのは、全体的なクオリティがどうしても下がりがちかと思います。
ミックスの順番が逆になるので、エンジニア的に難易度も実は高いんです。
というわけで、エンジニアさんからの解答をざっくりまとめると
・パラデータからのミックスに比べて料金は安くなる
・めちゃくちゃミックスしづらい
ということです。
おわりに
というわけで、せっかく0から作れるのに「歌ってみた」と同じようなやり方のミックスになるのは非常にもったいないなーというお話でした。
以上を踏まえつつ、納品時はカラオケではなく、
・パラデータ
・ボーカルデータを編曲側に渡して最終的なミックスまでやってもらう
のどちらかを選択していただければな、と思います!
こちらも参考に。