作曲からビジネスのスキルまで。「ゲームサウンド制作ガイド」はゲーム音楽制作の教科書

教則本・その他本

ゲームサウンド制作ガイド ―インタラクティブな音楽のための作曲技法 (GAME|DEV|LAB)

「ゲームサウンド制作ガイド」。

著者はウィニフレッド・フィリップス(Winifred Phillips)
『アサシン クリード lll レディ リバティ』『ゴッド・オブ・ウォー』『スピード・レーサー』などを手掛ける作曲家。

サウンド、用語の解説、ビジネスのスキルまで網羅してあって、ゲーム音楽の教科書的な本だと思いました。

ゲーム制作会社の構造なども書いてあり、フリーランスのクリエイターにとっては特に参考になりそうです。海外でのやり方なので、日本とは違う部分もあるかと思いますが。

また「この場面にはこういった音楽を使うのが適切だ」ということがわかるので、音楽を発注する方が読んでも有益だと思います。

あとは、2014年発行と、比較的新しいこと、論文や本、ゲームの引用が多く、情報量が多いこと、訳されたものだからか、文章が冗長に感じるところがある、和声法などの基礎的な作曲法は載ってない、といったところ。

では、かいつまんで紹介していきます。

ゲームの作曲で最も重要なことは「音楽によりゲームのプレイ体験を深めること」

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3章「没入感:音楽によりプレイ体験を深める」から、具体的な話になってきます。

作曲家は「音楽によりゲームのプレイ体験を深めること」がもっとも重要な仕事。

そのために、音楽には色々な役割があるということ。それが1つ1つ具体的に書いてあります。

・我々は、今ゲームの中で何をしなければいけないかという強力なメッセージを随時送ることができる
・正しい方向へ導くため、静寂と暗示を使う
・作曲家はプレイヤーの時間の感じ方に影響を与えて、実際よりも早く(遅く)時間が過ぎていると感じさせる特有の能力を持っている
・チュートリアルではフラストレーションや不安を取り除く
・活気があるアップテンポな曲により、集中力は高まり、気分は良くなり、結果的に知的能力が向上する

ゲームをプレイしながら音楽を聴いている時は、映画やテレビ番組を観ているときよりも音楽を吸収できる

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思い当たる方もいるはず。

ゲームの中で表現されるテーマ曲は、テレビや映画などの受動的な形式のエンターテイメントとは異なり、ユーザーの体験に紐付いたものとして記憶されます

効果的なゲームメロディの条件とは

・何よりもまず、メロディーにより音楽は記憶に残り、ある作品を他の作品と区別することができる
・反復するメロディが収録された曲が短すぎたり、曲自体が反復し過ぎると「反復による疲弊」が発生しよくない

テーマ曲のメロディを使った”ライトモティーフとイデーフィックス”という技法もここで出てきます。

テーマのメロディを何度も登場させる「ライトモティーフ」はよく知られているのでわかるのですが、「イデーフィックス」がどういったものなのか、具体的な説明がなくよくわからなかった…。

好みの音楽、ゲームのジャンルは性格と関係がある

内向的性格と見なされたほとんどの人はロックのカテゴリーの音楽を好んで聴き、一方、外交的で社交的であると見なされたほとんどの人はアーバンおよびポップ/ダンスの音楽を聴くという結果となったのです

5章「音楽のジャンルとゲームのジャンル」では音楽のジャンルと、それを好む人間の性格の分析をしています。

それを踏まえ、どのジャンルのゲームにはどのような音楽が好ましいかということが細かく書かれてます。

性格とゲームと音楽のジャンルの相関関係って、なんとなくは分かりますね。

資料収集について

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入手すべき資料

ゲームのプレイ動画、ゲームデザインドキュメント、ダイアログスクリプト、コンセプトアート、絵コンテ
サウンドアセットリスト、ゲーム内ムービー、ゲームの実装、ワークフ口ー等

僕の経験では、規模が小さくなるほどもらえる資料が少なくなる印象ですね。

最低でもゲームの内容を書いたテキストと、ゲーム画面の絵はもらっておきたいところ。

あと、スマートフォンのゲームだと、TestFlightというアプリを通して、実際にゲームをプレイさせてもらえたりします。それをもらえるとかなり作りやすくなりますね。

ループしているという、明らかな特徴が聴き取れる場合は、ゲームのループとして最悪

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「10章 ゲームにおけるリニアな音楽」はループについてのことが解説してあります。

ループの失敗はゲームの体験を損なう、というのは常に心に留めておきたいですね。何度も聴くものなので、ゲーム自体が台無しになってしまう。

この章はかなり参考になりました。

ループのための作曲技法


・導入部、中間部、最終部を持たせないという、伝統的な作曲技法とは逆のアプローチをとなければならない。
・バッハの対位法のように、メロディを永続的発展させる。
・スター・ウォーズの音楽のように、矢継ぎ早にダイナミクスを変化させる。
・異なるテーマの素材をなるべくたくさん詰め込み、聴き手を圧倒することで、心理的にループの切れ目を識別できなくさせる。
・短いループにおいての、単一のメロディーの断片、リズムパターン、ベースパターン、和音の反復。
・コード、もしくは音のクラスタを緩やかにフェードイン/アウトさせてループさせる。環境音と相性がよくムードを作り出せる。

ループポイントを滑らかに接続する方法

・ループの先頭、および曲中に特定のリズムもしくはコードのパターンのくり返しを配置することにより、ループポイントを特定困難にする
・トラックの終了部分でメロディの前半、トラックの開始部分でメロディの後半を分割して使う。コードも同様。
・トラックの終了部分を派手に盛り上げる

他にもループするときに途切れてしまうリバーブの処理の仕方、ゼロクロスポイントの処理など。

キャリア全体を通してライティングの手腕が求められる場面が無数にある

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ゲーム作曲家が身につけるスキルの中でも特に重要なものが挙げてあります

・書くスキル
・話すスキル
・Webサイトの構築
・情報收集
・データベースの構築
・カンファレンスへの参加
・批判との付き合い方
・近況の報告
・期待を上回る成果

我々はキャリア全体を通してライティングの手腕が求められる場面が無数にあります。

我々がキャリアを進む過程において、ライティングの必要性は高まるばかりです。

ブログを書いておいて損はないのでは!?

ゲーム作曲家になるためには

・議論の余地のないほど素晴らしい結果を残すことで、会社の重要人物にアプローチすること。他分野での成果も含む。
・正しいタイミングで正しい場所に必ず現れる人物をひたすら目指す

海外と日本の事情は結構違うかもしれませんが。

入り込むのが難しい業界っぽいので、海外で仕事をしたい場合は英語力が高くないと無理ですね。

音楽版エッシャー「無限音階」

おまけ的な。2章「作曲家に必要とされるスキル」から。

音楽理論によってゲーム作曲の問題が解決した例として、『スーパーマリオ64』の「無限階段」で使われている「無限音階」が挙げられてます。

永遠に音が上がり続けるように聴こえる…

理論、技法をよく知り、適切な場面で使えるようにしたいですね。

おわり

付箋めっちゃ使った…

もっと早く買っておきたかった。かなりおすすめです。

目次

最後にフルで目次を載せておきます。ちょっと長いですが、どこにもなかったので。

1章 なぜゲーム音楽を作曲するか?


1.1 ゲーム音楽の作曲家に要求されるアセッ ト
1.1.1 アセット#1 : ゲームに対する愛情
1.1.2 アセット#2 : ゲーマー文化を楽しめること
1.1.3 アセット#3 : 未開の地を開拓する意欲
1.1.4 アセット#4 : テクノロジーに対する免疫
1.1.5 アセット#5 : 音楽への情熱
1.1.6 アセット#6 : 個人事業主としてやっていく覚悟
1.1.7 アセット#7 : 新しい携帯の芸術を創造しているという自覚
1.1.8 アセット#8 : ギャンブラーとしての性分
1.1.9 アセット#9 : チームスピリット
1.2 なぜゲーム音楽を作曲するか?・

2章 作曲家に必要とされるスキル


2.1 音棠教育
2.1.1 正式な教育機関
2.1.2 個人レッスン
2.1.3 独学
2.2 音樂鑑賞能力
2.3 演奏家としての才能

2.4 音樂理論
2.5 作曲の経験

3章没入感:音楽によりプレイ体験を深める


3.1 不信の自発的停止
3.2 没入感
3.3 没入感と不信の自発的停止
3.4 音楽と没入感の3つの段階:#1能動的な関与
3.4.1 能動的な関与への道:初期の心理的な不安を取り除く
3.4.2 能動的な関与への道:道順の案内
3.4.3 能動的な関与への道:ゲームの状態を知らせる
3.4.4 能動的な関与への道: 時間の感覚
3.5 音楽と没入感の3つの段階: #2 忘我的な熱中
3.5.1 忘我的な熱中への道:強力な視覚的効果
3.5.2 忘我的な熱中への道:面白い課題
3.5.3 忘我的な熱中への道:説得力のある筋書き
3.6 音楽と没入感の3つの段階: #3完全な没入
3.6.1 完全な没入の前提条件#1:注意を引く
3.6.2 完全な没入の前提条件#2:共感
3.7 音楽によりプレイ体験を深める

4章テーマの重要性


4.1 ライトモチーフとイデーフィックス
4.1.1 ライトモチーフ・-6 |
4.1.2 イデーフィックス・ 64
4.1.3 イデーフィックスの適用例:『アサシン クリード||| レディ リバティ』
4.2 ゲームにおけるテーマの使用・ 69
4.2.1 効果的なゲームのメロディーの条件
4.2.2 楽器によるアレンジ
4.2.3 変奏曲と断片抽出
4.2.4 主題と変奏の適用例:『アサシンクリード||レディリバティ』
4.2.5 テーマによりゲーム体験を向上させる
4.3まとめ

5章 音楽のジャンルとゲームのジャンル


5.1音楽とターゲット層
5.2ゲームのターゲッ トとする市場
5.3DGD1人口統計モデル
5.4音楽と性格
5.5音楽のジャンルとゲームのジャンルの関係
5.5.1 シューティングゲーム
5.5.2 プラットフォームゲーム
5.5.3 アドベンチャーゲーム
5.5.4 ロールプレイングゲーム
5.5.5 サバイバルホラーゲーム
5.5.6 レースゲーム
5.5.7 シミュレーションゲーム
5.5.8 ストラテジーゲーム
5.5.9 パズルゲーム
5.5.10 対戦型格闘ゲーム
5.5.11 ステルスゲーム
5.6まとめ

6章 ゲームにおける音楽の役割と働き


6.1 心理状態を形成するための音楽
6.2 ワールドを形成するための音楽
6.3 速度を感じさせるための音楽
6.4 フィードバックとしての音楽・
6.5 その他の音楽の役割
6.5.1 音楽によるブランディング
6.5.2 境界線としての音楽
6.6まとめ

7章 資料収集とワークフロー


7.1 資料取集
7.1.1 入手すべき資料:ゲームのプレイ動画
7.1.2 入手すべき資料:ゲームデザインドキュメント
7.1.3 入手すべき資料:ダイアログスクリプト
7.1.4 入手すべき資料:コンセプトアート
7.1.5 入手すべき資料:絵コンテ
7.1.6 入手すべき資料:サウンドアセットリスト
7.1.7 入手すべき資料:ゲーム内ムービー
7.1.8 入手すべき資料:ゲームの実装
7.2 ワークフ口ー
7.2.1 並行で行うべき作業:調査
7.2.2 並行で行うべき作業:音源ライブラリーの拡充
7.3 まとめ

8章 開発チーム


8.1 チームの構成
8.1.1 ミュージックエグゼクティブ/ミュージックディレクター
8.1.2 ミュージックスーパーバイザー
8.1.3 プロデューサー
8.1.4 オーディオディレクター/オーディオリード
8.1.5 サウンドデザイナー
8.1.6 その他の部署
8.2 チーム内での作曲家のポジション

9章 ゲームで制作する音楽の種類


9.1 ピッチトレイラーとバーティカルスライス
9.2 ティザー広告
9.3 テスト用トラック
9.4 グローバルトラック
9.5 メインテーマ
9.6 チュートリアルの音楽
9.7 アクショントラックと環境トラック
9.8 パズルトラック
9.9 スクリプテッドシーケンス/カットシーン/クイックタイムイベント/ ゲーム内ムービー
9.10 アトラクトモード
9.11 予告編の音楽
9.12 ゲームにおける音楽の役割

10章 ゲームにおけるリニアな音楽


10.1 ループ
10.1.1 ループを実現するための作曲技法
10.1.2 ループを実現するための制作技法
10.1.3 ループの制作における諸問題
10.1.4 ループまとめ
10.2 スティ ンガー
10.2.1 勝利スティンガー
10.2.2 敗北スティンガー
10.2.3 転換スティンガー
10.2.4 暗示スティンガー
10.2.5 報酬スティンガー
102.6 スティンガーの適用例『Dead Space』
10.3 ワンショット
10.3.1 ゲーム内ワンショット
10.3.2 ゲーム内ムービーとカットシーン
10.3.3 スクリプテッドシーケンス
10.4 まとめ

11章 ゲームにおけるインタラクティブな音楽 : レンダリングした音楽の場合


11.1 18世紀のインタラクティブな音楽
11.2 ホリゾンタルリシーケンシング
11.2.1 ホリゾンタルリシーケンシングの適用例#1: 『スピード・レーサー』
11.2.2 ホリゾンタルリシーケンシングの適用例#2:『Tron2.0』
11.2.3 ホリゾンタルリシーケンシングの適用例#3: クイックタイムイベント
11.2.4 ホリゾンタルリシーケンシングの長所と短所

11.3 バーティカルレイヤリング
11.3.1 バーティカルレイヤリングVSステムミックス
11.3.2 バーティカルレイヤリングの適用例#1:『The MaW』
11.3.3 バーティカルレイヤリングの適用例#2:『InFAMOUS2』
11.3.4 バーティカルレイヤリングの適用例#3: 『リトルビッグプラネット』
11.4 まとめ

12章 ゲームにおけるインタラクティブな音楽: データとしての音楽の場合


12.1 MIDI
12.2 MOD
12.3 ジェネラティブミュージック
12.3.1 最古のジェネラティブミュージック
12.3.2 ジェネラティブミュージックの歴史
12.3.3 初期のテレビゲームにおける適用例
12.3.4 現代のテレビゲームにおける適用例

13章 技術的なスキル


13.1 作曲のためのオーディオテクノロジー
13.1 .1 PC
13.1.2 オーディオインタフェース
13.1.3 ハードディスク
13.1.4 MID|キーボード
13.1.5 ミキサー/プリアンプ
13.1.6 スピーカー/ヘッドフオン
13.1.7 DΑW
13.1.8 プラグイン
13.1.9 ソフトシンセ/ソフトウェアサンプラー
13.1.10 音源ライブラリー/バーチャル楽器
13.1.11 ループライブラリー/ループ編集ソフト
13.2 ゲーム開発のためのオーディオテクノロジー
13.2.1 プロプライエタリなソフトウェア
13.2.2 ミドルウェア
13.2.3 サラウンドサウンド
13.3 テクノロジーの購入

14章 ビジネスパーソンとしてのスキル


14.1 書くスキル
14.2 話すスキル
14.3 Webサイトの構築
144 情報收集
14.5 データベースの構築
14.6 カンファレンスへの参加
14.7 批判との付き合い方
14.8 近況の報告
14.9 期待を上回る成果