今回ご紹介するのは、「プロが教えるアニソンの作り方」という本。
アニメの音に関わる方々のインタビューや制作方法の解説、といった内容です。
タイトルは「アニソンの作り方」なんですけど、劇伴についてもかなり言及してあるので、アニソン(アニメの主題歌)だけじゃなくて劇伴を作りたい人も読まないともったいないなあと思って紹介します。
5分の1くらいは劇伴の話じゃないかな。
というわけで、劇伴に言及してある部分をざっくり引用しながらあれこれ勝手なことを書いていきます。
劇伴志望者は音大へ
第一章はプロデューサー&ディレクターのお仕事。
最初はランティスの代表取締役副社長 伊東 善之さんから。
「空耳ケーキ」や「もってけ!セーラーふく」などのヒット曲を生み出した方。
音楽大学に入って対位法を学び、オーケストレーションを作れるようになることが何よりも重要です
僕も長く劇伴の仕事を続けるなら音大レベルのスキルを身につけておいて損はないと思います。大御所でこのスキルがない方はほぼいないですからね。DJ出身の方など、例外はありますが。
次はランティス 執行役員 斎藤 滋さん。
『涼宮ハルヒの憂鬱』の音楽プロデューサーなど。
多くの場合は”こんな感じの世界観でいきたいな”というふんわりしたオーダーをいただくんです。それに対して僕は”この監督とうまくやれる作家は誰か”とか”このスケジュール感でやれる人は誰か”といったことを考えて作曲家を提案します。
一般的な1クールのアニメでいうと、メニュー打ち合わせから納品に至るまで、できれば45日、理想を言えば60日くらいは欲しいところです。
どういう風に作家が決定されるのかとか、スケジュールとか。
◯劇伴の良しあしはどのように判断されるのですか?
→最近、なんとなく思っていることは、1曲ごとの良い悪いということよりも、アニメを1話から最終話まで見たときに感動があるかどうか、劇伴で演出できているかどうかということです。
やっぱり劇伴って映像に寄りそえてるかが大事なんですねー。
◯劇伴の作曲家を目指している読者に向けて、ぜひこのサウンドトラックはチェックしてほしいという作品を挙げていただけないでしょうか。
→『Free!』と2期『Free!-Eternal Summer-』の劇伴は聴いてみて欲しいです
本の中で『響け!ユーフォニアム』にも少し触れられてますね。神アニメでしたわ…
『Free!』の楽曲解説あります
次は第三章、作曲/編曲の現場から。
『食戟のソーマ』『Free!』などの劇伴を手がけている加藤達也さん。
◯発注を受けた後は、どういう曲から手を着けていくのですか?
→多くの場合はテーマとなるような曲がいくつかあるので、そこから手を着けることが多いですね。その曲のモチーフを使って他の曲を作ることもあるので、メインとなる曲のメロディは早めに決めるようにしています。ただ、そういう曲は時間がかかりがちなので、僕の場合は複数の曲を行き来することが多いです。
『Free!』劇伴の詳細な楽曲解説もあります。
こんな感じで、使用ソフトなどが書いてあります。チラ見せ。
オーケストラは劇伴と相性がいい
第5章、音響監督のお仕事。
『シドニアの騎士』『ガールズ&パンツァー』等の音響監督、岩浪美和さん
◯劇伴の制作はプロジェクトのどの段階からスタートするのですか?
→ダビング作業は放送の大体1ヶ月前くらいから始まるので、その3ヶ月前、つまり放送の4ヶ月前くらいに作曲家の方へ発注するというのが平均的です。
1クールの作品の場合は何となく暗黙の了解で40曲くらい作っていただくんです。~これを考えるのが音楽に関しては一番最初の大きな仕事です。
最終的なクライマックスで、楽器編成的にも最も分厚いグッとくるような同じメロディのM1が流れると、最後の感動も大きくなるんです。
僕の場合は、そういう大きな流れを作るために、40曲あったら10曲くらいはテーマ曲のバリエーションを作ってもらいます。
ピアノだけで少し暗いバージョンや明るいバージョンを用意しておくと作品の中で使いやすいんですよ。ピアノはすごく耳なじみがよい楽器なので邪魔にならず、セリフにも当たらないんです。ピアノでメロディだけ弾いているようなものも便利ですね。
この本に何度か出てくる、同じメロディを何度も登場させるのは「ライトモティーフ」と言われるものですね。効果的です。
オーケストラってしっかりとセンターに定位する楽器がないんですよね。そしてセリフの多くはセンターから出すので、そういう意味でオーケストラは相性がいいんだと思います。
特に感動を生み出すためにはストリングスが効率的なんだと思います。~中略~ ストリングスはいろんな作品の感動的な場面で使われているので、弦が持っているゆらぎなどの音色自体が感動と結びつきやすくなっているんだと思います
やはり、オーケストラというのは劇伴の基本になりますね。
ステムでもらうメリットは音楽を編集しやすいので汎用性が高まり、より効果的な使い方ができるようになるということで点です。例えば、弦はこのタイミングでつなぎたいんだけど、打楽器は別のタイミングから出てきたほうがいいということがあったり ~中略~ 一番大きいのはエディットを音楽的にできるということだと思います
各パートごとに分ける「ステム」は、僕も劇伴の仕事の時に作りました。やはり、時間的に短いシーンで音楽的に編集しやすかったり、使い方のバリエーションが柔軟になりますね。
ハート・ウォーミングな作品ではより映画的な音の付け方になります。
状況を追うようなテレビの手法と、映画的な感情表現の両方を組み合わせながら、アニメーションの音楽は形作られるんです。
◯最後に劇伴作家になりたい方へのアドバイスをお願いできますか
→僕が言えるのは”とにかくあらゆる音楽を好きになってください”ということでしょうか(笑)
”強いて言うなら、”好きじゃないもの”を聴いた方がいい”
アイウィルのチーフプロデューサー佐藤純之介さん。
『ラブライブ!』『ウィッチクラフトワークス』などを手がけたプロデューサー/ディレクターの方。
劇伴は映像を邪魔せずに、でも作品を彩るということが必要なんですね。これができるかどうかは、どれだけ多くの映像作品を観て、研究しているかによると思います
ギター、シンセ、ドラム、ベースなど、すべての楽器を一通りこなせるくらいのノウハウは必要になると思います
その人の得意なジャンルとアカデミックなものの2本柱を自分の中でミクスチャーして、新しい作品を作ることを模索してほしいですね
強いて言うなら、”好きじゃないもの”を聴いた方がいいのではないでしょうか。好きなものを研究するのはもちろん大事なんですけど、好きじゃないものをたくさん聴いて自分のものにしていくことは大切だと思います
好きじゃないものを聴いた方がいいっていうのは面白いですね。でも、聴かず嫌いというか、馴染みがないものを理解しておくのは大事だなあと。実際の仕事になると作ったことがないジャンルのものを作る場面がありますからね。
主題歌を作りたいという人に比べると劇伴の門戸は狭いと思います。~実績のない人がいきなりピックアップされることはまず無いと思ったほうがいいかもしれません
劇伴への道は遠い…
おしまい
劇伴の参考にアニソンの作り方の本を紹介する回でしたがいかがだったでしょうか。
曲を作っている方だけでなく、作詞や音響監督、プロデューサーのお話など、あまり読めないようなお話が多かったので全体的に面白かったです。
もちろんアニソンを作りたい方にもためになる1冊だと思います。