けものフレンズの劇中音楽は『観察者の視点』で流れる。この世界での危機はセルリアンだけなのだ。

アナライズ

けものフレンズ劇中音楽(劇伴)を読み解いていきたいと思う。

「観察者の視点」で音楽がついている。

けものフレンズは本編中に流れている音楽、いわゆる「劇伴」の使い方が通常のアニメとは違う。

仕事柄、映像を見るときは音楽の内容や使い方が気になるのだが、けものフレンズは音楽の使い方の意図がよくわからない部分があった。

緊張感があるべきシーンでも明るい音だし、会話の内容に対して音楽の雰囲気がズレている感じがする。

アニメの音楽というのは、登場人物の感情につけたり、状況につけたり、見える景色につけたりといった、ある程度使い方のルールがあるものだが、私が知っているどのルールにも当てはまらない。

 

音楽自体を単体で聴いてみると、ナショナルジオグラフィックやダーウィンが来た!のような、自然の動物の観察、記録をしている番組のような音楽だなと気づいた。いや、もうちょっとバラエティっぽいか。

だったら、音楽の使い方もそうなのかもしれない。

 

そこで、擬人化された動物を、元の動物に戻した映像として見てみると非常にしっくりきた。これだ。

ゆったりとした会話の音楽も、コミカルな音楽がついているコツメカワウソの滑り台の場面も、リラックスしすぎな橋を建築する音楽も、明るすぎる崖から滑り落ちる音楽も、そういうアニマルビデオとして見るとしっくりくる。

ただの動物が戯れているところに音楽をつけているような感じだ。バラエティやニュース番組のように。

けものフレンズの音楽は、「動物を観察する者の視点」でつけられているのだ。

だから、けものの会話の内容は無視されているし、危機を感じる場面でも、観察者はそれを危機と感じていない。

 

2話 5:15~の音楽の使い方で確信を得ることができる。

じゃんぐるちほーの動物を紹介する場面。

日常会話でも使われているけれど、これがこの音楽の本来の使い方だろう。動物園に遊びに来て、ガイドに説明を受けている雰囲気だ。かなりしっくりくると思う。

 

また、1話の冒頭で、サーバルがかばんちゃんを追いかける場面。

通常のアニメだったら、導入は緊張感を出して視聴者を引き付けるために、かばんちゃんが正体不明の生物に追いかけられて、サーバルが「食べないよー」と言うまでは緊張感を持続させるだろう。

セリフは同じだとしても、結末がわからないような音楽にすると思う。

しかし、音楽もSEも最初から全力で楽しげだ。

これが、観察者目線の音楽だとしっくりくる。観察者である人間だったら、動物の捕食シーンに明るい音楽をつけた映像をお茶の間に流すだろう。

だから、この場所では1匹のけものであるかばんちゃんが食べられるとしても、明るい音楽なのだ。

ちょうど、「ダーウィンが来た! 」の解説をアニメ本編に重ねた映像が作られている。

この動画の3:50~が、まさにこの使い方だ。

この世界での危機はセルリアンだけなのだ、ということを音楽が語っている。

もう一つわかるのが、

音楽を使ったフリやオチがほとんどない、ということ。

「セリフや場面には不安なものがあっても、音によって成功が約束されている」

という演出が多く、視聴者に緊張を強いる場面が少ない。

例えば、

「食べないでくださいー」では毎回明るい音楽やSEがついていて、「たべないよー」のセリフを言う前にすでに音で食べないことがわかっている。

燃料電池をバスに入れたときも動く前に明るい音が鳴っており、成功が約束されている。正体不明の穴を多く発見した時も明るい音楽で安全なことがわかる。

橋や家を作るときも、きちんと完成することがわかっている、安心させるような音楽だ。首が折れたように見えたヘラジカも全然死んでない。

 

サーバルがバスに轢かれた時だけは音楽が止まったのでヒヤッとする。そのあと、普通にかばんちゃんは笑っているので、あそこは流しっぱなしにしておいてもらいたかった。びっくりするじゃん。

対セルリアン戦だけ音楽のルールが違う。

対セルリアン戦だけ音楽のルールが違う。

通常のアニメ劇伴っぽい作り方と、メリハリの効いた使い方をしている。実際に視聴者も、対セルリアン戦の音楽だけは音の質感とルールが切り替わるので、はっきり認識する人が多い。

いつもは食べられないし、落ちないし、死なないが、セルリアンだけは、脅威、緊張感、死のイメージがついている。

この世界では、セルリアンだけが脅威だということを音楽が語っている。

けものフレンズはストレスを与えない

セルリアン戦以外の場面では緊張する場面がほぼない。

劇中の音楽は、視聴者が気づかないうちに感情をコントロールしており、視聴者にストレスを与えていない。それがこのアニメが心地よい原因の一つだ。

通常のアニメは緊張と緩和を頻繁に繰り返すので、視聴に精神的負荷がかかる。

現代においてはすでに現実で負荷がかかっているので、無意識に「アニメ視聴でこれ以上の精神的負荷をかけたくない」と思っているのではないか。けものフレンズは、常に絶対安全な世界を見せることで精神的負荷を解放する、電子ドラッグアニメなのだ。

 

また、フリがないからこそ、ストーリーが読めない。

追跡者のフェネックとアライグマも、明るい音楽がついているせいで、何者かが全く認識できない。音楽のトーンも全体的に明るすぎるため、廃墟などの闇が見えてしまった場合に、深読みしすぎることになる。

パロディの存在

「パロディやメタ、時事ネタなどの要素は入れないように」ということだったはずだが、



最終回直前「けものフレンズ」福原P「『ツチノコはいません』と言われたらぶち壊し」 – エキレビ!(3/5)

アニメ内で「大改造!!劇的ビフォーアフター」や「きょうの料理」の音楽のパロディが聴ける。

やはり、音楽だけこの世界のルールとズレている。

おわりに

キングコブラがすき。

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