作曲家、多田彰文さんに聞く、劇伴仕事のすすめかた【第二回】

音楽でメシ

第一回に引き続き、多田彰文さんに色々なことを聞いてみた、第二回です。

僕自身、ドラマや舞台の劇伴を制作することはあるんですが、毎回スケジュール感や段取りのしかたが掴み切れなくて苦労します。

このあたりの具体的なことというのはあまり情報がないので、それを多田さんに聞いてみました。今回はかなり実務的な内容になっているはずです。

劇伴の仕事が来るのは公開の2ヶ月前くらい

こおろぎ
まず、音楽制作のお話が来るのって、公開からどれくらい前なんですか?
多田
ものによります。通常は2ヶ月前くらい。

最短で1週間だったかな。30曲。それはちゃんと生で録音するものです。それは一人じゃできないから、その時は3人の作家でやったかな。半分は僕がやりました。

ミックスまで自分でやるっていう納品だと、3週間60曲というのがありました。1曲あたり90秒で。そういう短い期間のものもありますけど。

こおろぎ
話が来たらすぐ打ち合わせですか?
多田
クライアントさんの都合にもよりますけども、大体、次の日から1週間くらいの間に打ち合わせがあります。

自分から先手先手で攻めていく

こおろぎ
打ち合わせの時にはメニューはもう用意してあるんですか?
多田
それはもう。音楽打ち合わせなんで音楽メニューが出てくるわけです。
こおろぎ
ご自身で台本を見てメニューを作るということはないんですか?
多田
ないですね。前資料として台本とか絵コンテとかはもらいますが。あとプロットっていう、台本にまでなってないようなもの。あと企画書。

それ以外に、劇伴として情景を作る時に必要な美術設定とか、キャラ設定みたいな絵。もちろんまだ非公開なものですけれども。

それを見てイメージを膨らませたり、自分だったらこういうのがいいかな、という資料を持っていったり。あと、自分が過去作った中で合いそうなものを資料として、打ち合わせの時に用意しておきます。

空気を読みながら「感動の何か」って言われた時に「例えば、こういうのどうですか」って聴かせてみる。

最近ではそこから一歩踏み込んで、打ち合わせの段階でデモを勝手に作っていってます。「こういう感じじゃないですか、こういうのどうですか」みたいな。

自分からどんどん先手先手で攻めていく。違うって言われたら素直に引っ込められばいいわけで。

音響監督によっては「いやまだちょっと色々悩んでるんですけどね」「迷ってるんですよね」って言われた時なんかは、「僕としてはこういうので行きたいなと思ってるんですよ」「こういう音楽性方向性いかがですか」みたいに提案する。

出したものに対して「ちょっとそれは違うな」とか、そういうのを言ってもらうのは自由なので。

こおろぎ
提案できると強いですよね。
多田
人にもよりますけどね。

自分のやりたいことが決まっている人だと、逆にその人の話を聞いた方がいいです。

そうじゃない人だったら、こっちから出したものを選んでもらう。

ものを買うときと似てますよね。

例えば、パソコンを買うとして。ゲームをやるパソコンが欲しいんだけど、どのメーカーがいいのかどれくらいのスペックがいいのかわからない。

その時に、店員さんが、あんまり商売っぽくなく、どうしてもこれが売りたいからって持ってくるんじゃなく、その人の立場になって、「こういうのあります、こういうのもあります」っていうふうに2、3選択肢をくれるっていう。

そのやりかたがいい場合もあるし、「こういう方向性で」って言われたときに、それをもうちょっと広げられるように「この音楽だったら、こういう編成ですね」とか。

こおろぎ
相手が迷っている時は選択肢を提示して、やりたいことが決まっているときはそれを拡張して提案していく。場合や相手によって変化させる。ということですね。

映像や映画について

こおろぎ
最初の時点で動いている映像を見ることができる、ということはほとんどないんですか?
多田
ないです。あるときはあるけども、俗に言う、コンテ撮っていう、静止画をつなぎ合わせて動画にしているもの。

関くんのときは、実写版だったら動画はできてたんじゃないですか?

こおろぎ
「となりの関くん」の場合は、※MAの1週間くらいまえに※オフラインが来ましたね。

そこまでは台本だけを見て曲を考える作業をしていました。音楽メニューもなく。

 

多田
実写の場合は、先に動画が出来上がっているときがありますよね。映画なんかだと、先に撮っちゃってる事が多いんですが。時と場合によりますけども。

かつて僕があたったものは絵の方が先で。撮影の方が先に進んでいて、もうセリフも入って。それに音楽をつけました。

こおろぎ
映画だと全然やり方が違ってきますよね。
多田
映画はラップがありますからね。

ここまで何秒間は「焦り」ここからは「やすらぎ」とか。しかも使うのは1回こっきり。

版権が同じであれば、映画もテレビシリーズもあれば、映画で作ったものをテレビ用に使ったり、っということはたまにありますが。

こおろぎ
映画の音楽ををテレビに使う、っていうこともあるんですね?逆はよくありそうですが。
多田
まあ、ケースバイケースですね。映画とテレビで全然別のところが作ってたりすると使えないですから。

予算について

こおろぎ
打ち合わせで「この予算でやってください」というのは言われるんですか?
多田
うちは、会社(IMAGINE)としては言われてるんですよ。僕が所属してる事務所としては、そういうふうにしてるけども、僕自身では基本ないです。

最近では、プロデュースごと引き受けるから、そのときは金額的な話はします。そういうときはこっちから聞いたりしますけどね。実現したいと思うこととお金がちゃんと釣り合うかどうか。

そこは夢物語ばっかり語ってても、後でショボーンってなっちゃうので。

「そういうことをやりたいんだったら、どれくらいの規模でやるんですかね」って、それを嫌味なく聞きます。

単に「いくらですか!」とは聞けないですから(笑)

こおろぎ
お話が来た時点でストリングスを録る、なんていうことは決まってたりするんですか。
多田
そうですね。クライアントさんのほうで、今回はなんとなく弦を入れたいとか。

最初のデモは2、3日で提出する

多田
で、その打ち合わせが終わって作曲作業。

それは本当にコンピューターベースで、いわゆるデモ、というよりもプロダクションに近いです。

そのデモを全部提出する時もあるし、30曲中の2、3曲、メインテーマのところとか、ちょっと方向性がわかるものだけを提出して、あとはおまかせっていう時もあります。

こおろぎ
最初のデモを提出するまでどのくらいかかりますか?
多田
それはもう、なるはやでやります。

もう二日三日で。その方が自分としても制作の時間を稼げるので。クライアントさんとしても早くわかるし。

これじゃないって言われた時にすぐ対応できるから。

こおろぎ
そこでOKをもらって、 そこからは他の曲を作っていくんですよね。その時はもうレコーディングの日は決まってるんですか?
多田
そうですね。もうデッドラインが決まるから。それから逆算して。
こおろぎ
レコーディングは納品のどのくらい前なんですか?
多田
納品の1週間前。これもケースバイケースです。

そして、ミックスのあがり=納品日。ぐらいの感じですかね。もしくは1日予備があるくらい。

連絡の頻度など

こおろぎ
そこまでに全部の曲のOKをもらっていくんですか?
多田
それは、何個かデモを出して、それでOKが出れば、あとは基本そのラインで作っていくだけなので。ある程度はお任せになります。

全部デモ出す時は全部デモ出す時で、ラフで作るんではなくて、割ともうガチで作っちゃいます。OKが出ればそのまま録音できるわけなので。

こおろぎ
そこから下手にいじっても、なんか違うなーってなっちゃったりしますよね。
多田
そうそう、また打ち込み直しとか。それは効率悪いので。

だったらもう、はじめからその方向で作っておいて、8割くらいのところまでやります。

例えばストリングス音源とかも仮の音源を使うんじゃなくて、本腰を入れた音源を使っておいて、あわよくば打ち込みでも成立するようにします。

いろんなことを伏線にかけておく。生で弦を録れるってわかっていても、万が一、時間が足りなくなるってこともあるので。打ち込みでも何曲かは通せるようにしておきます。

こおろぎ
録音までに頻繁にやりとりするということはないんですか。
多田
監督によってそれをやるときもあります。

昔はおまかせっていうことが多かったんですけど。今はおまかせって言われてても、聴いてもらったりします。

それもまたさじ加減で。あんまり聴かせすぎても、向こうが迷っちゃうので。向こうも並行して作業をやっているわけだし。そこは適度に空気を読みながら。

欲しいと思ってる人とそうでない人っているみたいだから。

とにかく何でも聞きたい、全てあるものは情報として欲しいっていう人もいるし、そうじゃない人もいる。任せたのになんでいちいち聴かせるんだよ、っていう人もいるかもしれない。

それを総合して考えると、結局人間関係ですよね。何であっても。

ハードディスクで納品

こおろぎ
納品するときは、エンジニアさんからファイルをもらって、それをMAのほうに渡すわけですか。
多田
それは事務所に所属しているありがたみで、担当がやってくれます。

昔だとテープだったんですけど、今は2MIXとProtoolsファイルを含めてハードディスク納品です。

こおろぎ
それでMAで音を抜いたりとかもあるわけですよね。
多田
もちろん。 そこから先はクライアントさんに任せる。

僕は別に何されてもいいタイプだから。人によっては「まとまった音楽以外使ってくれるな」っていう人とかもいるんだけども。

僕は、必要だと思ったら使ってくれればいい、ステムであろうと、バラの1個の素材であろうと。僕が音楽を担当することには変わりはないから。

こおろぎ
ミュージシャンのスケジュールを押さえるタイミングっていつくらいなんですか?
多田
それはコーディネーターに任せています。

アーティストの自主制作の場合は、僕が直接話はしましたが。スタジオを自分で押さえて。

それは知り合いのミュージシャンと最初から連絡を取り合って。逆に「いつだったら空いてる?」って聞きました。

おわりに

いかがだったでしょうか。

なるべく、実際に自分がやることになったときのシミュレーションができるように聞いてみたつもりです。

結局のところ、その仕事をやってみないとわからないことも多いんですけどね。

予算については、ちょうど多田さんが藤本健さんと作った「DTMステーションCreative」というレーベルの予算・会計が公開されています。

■DTMステーション、M3-2018春に参戦。作曲家の多田彰文さんと新レーベル始動し予算・会計も大公開。第1弾シンガーは小寺可南子さん!

※MA 完成した映像に音楽、効果音、ナレーション等をつけて音の最終調整をする作業。「audio post production」ともいわれる。
※オフライン 仮編集の動画

プロフィール

多田 彰文(ただ あきふみ)(@akifumitada )

1989年手塚治虫原作「火の鳥」舞台演劇にてシンセサイザー演奏デビュー。
その後、辛島 美登里をはじめ、馬渡松子、中川翔子など 歌手・アーティストのツアーミュージシャンとして演奏活動を行う。

ドラマやアニメ、ゲーム音楽の制作やアーティストのプロデュースも手掛ける。

キーボード・ギター・ベースはもとより、木管・金管楽器、ヴァイオリン、パーカッションから大正琴まで、あらゆる楽器を弾きこなすマルチプレイヤーでもある。

「魔法つかいプリキュア!」前期ED作曲、「中二病でも恋がしたい!TOM」編曲、
アニメ「ずんだホライずん」、劇場版ポケットモンスターシリーズ、劇場版クレヨンしんちゃんシリーズなど多数。

第一回はこちら

多田彰文さんに聞く、音楽業界生き残りのコツ【第一回】