こんばんは、作曲家のこおろぎです。
今回はBGMと劇伴と言われる音楽の違いについて解説してみます。
BGM(バックグラウンドミュージック)は
店内やトーク番組の後ろで流れていたりする音楽。
劇伴は演劇の後ろにつける音楽。
海外だとサウンドトラックとかアンダースコアと呼ばれることもあります。
まとめ
今回の文章を超要約すると以下になります。
BGM:環境についている
劇伴:演劇の感情や状況についている
BGM:同じ雰囲気が続く
劇伴:感情や状況の展開に応じて変化する
BGM:一定の音量で編集が少ない
劇伴:音量が変化し尺が編集される
はじめに
そもそも「劇伴とは何か」を解説しようと思ったんですが、劇伴だけを説明されても、他の音楽との違いがよくわからないかもしれないなと思いました。
というわけで、今回は劇伴と混同されがちなBGMと比べながら、それぞれどういった特徴があるのかを知っていただければなと思います。
純粋な視聴者は、「これはBGM、これは劇伴だ」というふうきちんと分類して気にして聞かなくてもいいかなとは思ってます。
しかし、作る側としては明確に区別して作っています。
演出や状況的に、ここはBGM的に音楽をつけるのか、劇伴的につけるのか。
そうやって名前をつけることで、役割を明確に区別することができ、ギアチェンジをしっかりしてメリハリをつけることができるんですよね。
必殺技は名前を付けた方がいいみたいな話があるじゃないですか。 名前がつくことでビシッと型が決まる。みたいなイメージ。
また、BGMと劇伴の定義はプロの中でも曖昧です。
今回の話は大雑把なところではみなさんの合意は取れると思うんですが、 細かい部分は私こおろぎ個人がギアチェンジをするために意識している線引き、くらいに考えておいてください。
BGMと劇伴の役割の違い
まずはBGMと劇伴の役割の役割の違いから。
文字通りBGMはバックグラウンドミュージック、劇伴は劇の伴奏音楽です。
例えばお店に入った時にお店のスピーカーから流れている音楽はBGM
YouTubeで人がトークしている時に後ろで流れているのはBGM。
一方、アニメやドラマや映画で演技をしているシーンの後ろで流れている音楽は演劇の伴奏をしているので劇伴です。
じゃあゲームの場合はというと、
プレイヤーが操作しているシーンの音楽はBGMなんですが、ムービーシーンで演技をしている後ろで流れてる音楽は演劇の伴奏をしているので劇伴と言えます。
1つのメディアの中でも、使い分けをされている時がある。
また、演技をしていないところで流れるのがBGM、演技をしているところで流れるのが劇伴、と考えるとわかりやすいんですが、
ここで理解が難しくなるのは、演技の後ろで流れているからといって必ずしも劇伴と言われるような音楽ではないときもあるということ。
音楽が果たす機能によってBGMか劇伴かというのは呼び方が変わるんです。
例えば「カフェの中で店内BGMが流れててそこで演劇をしている。音楽自体は 会話の内容と関係がない。」
この場合は演劇をしているのにもかかわらず、音楽はBGMと呼ばれます。
しかし、この店内の音楽がそのままでも感情や状況の流れに合流し、効果を発揮しだすと劇伴として機能する。
シーンの最初はBGMとして流れ、演劇に対して何の機能も持たない、環境で流れているだけの音楽だったものが、途中から演劇に絡まってきて劇伴として効果を発揮する
という音楽の作り方や使い方をすることもあります。
それを踏まえると
BGM:感情や状況の流れに沿っておらず単に環境についている
劇伴:演劇の感情や状況の流れに沿ってついている
と言うこともできるかなと思います。
ここまでの説明は非常に分かりにくいと思うので、実際に演劇をやってみたいと思います。
1.全てがBGM
2.最初はBGM、途中から劇伴の別の曲に切り替わる
3.BGMが後半で劇伴として機能する
この3つのパターンで、同じ演劇に違う音楽をつけてみたいと思います。
以下の動画の04:20から聴くことができます。
ユミ「ヒロト、今日は話があって呼び出したの。ちょっと真剣な話だから、聞いてほしい。」
ヒロト「ユミ、どうしたの?何か問題があるの?」
ユミ「私たちの関係、どうしても前に進めないことに気づいたの。」
ヒロト「え…それって、どういうこと?」
ユミ「私たちはお互いにとって大切な時間を共有したけど、もうそれぞれの道を歩む時が来たと思うの。」
ヒロト「でも、僕たち…僕たちまだやり直せると思ってた。ただ単に時間が必要なだけで…」
ユミ「ごめんなさい。でも、私の決心は固いの。新しいスタートを切るチャンスを与えてほしい。」
ヒロト「わかった…もしユミがそう思うなら…」
1.全てがBGM
全てがBGMだと、このシーン全体の印象が薄くなると思うんですね。
このシーンや人物が重要ではない時にはこういう風にすべてBGMで流したりします。
また、伏線になっているんだけど重要そうに見せないとき。
あとは、本当の腹の中で何を考えてるかわからない。そういう印象にもなります。
客観的に2人を見てるという印象にもなります。
こういう風に、演技の後ろに演出としてBGM的に使われている楽曲も劇伴と呼ばれたりします。
ここは作る側として意識を分けた方が分かりやすいという、私こおろぎの中の区分けでしかないかもしれません。
2.最初はBGM 、途中から劇伴に切り替わる
途中から劇伴に切り替わるとこの出来事が深刻に受け止められ、物語が進む感じになります。
ヒロトとユミが物語の中心にいるように感じる。
特にヒロトの方の内側の感情に寄り添って劇伴はショックや寂しさ、少しの前向きさみたいなものを表現しています。
時系列も大事で、この音楽のつけ方だと現在進行系で急に言われてショックを受けた音楽になっています。受け止めるのも早すぎますが、それは尺の都合ということで…とにかく晴天の霹靂な感じ。
これが過去の話なら結果は分かっているので、最初から寂しかったり悲しい音楽をつけるということもあります。
3.BGMが劇伴として機能する
BGMの曲調がそのままで劇伴として機能するというパターン。
この場合は別れ話なんですが、そういうときは店内の音楽はバカ明るい方が対比になって効果的です。
これを音楽と映像の対位法と言われたりします。
今回は出来がイマイチで効果的ではなかったですが…なんとなく見たことのある演出だと思います。
この対位法は、ビシッと決まるとすごくスタイリッシュでかっこいいんですが、スタイリッシュさが先行して話の内容が飲み込めなくなっちゃう時があるので注意が必要です 。
以上3つのパターンでBGMと劇伴の違いを対比させてみました。
この音楽のつけかた、実際にはどれが正解というわけではなく、演出や物語の流れで使い分けていきます。
BGMと劇伴を作るときの違い
ここからはもっと詳しい楽曲の作り方や構造の話をしていきます 。
まず、劇伴とBGMの楽曲としての大きな違いは、展開をするかどうか。
BGM:1つの雰囲気で統一されている
劇伴:感情や状況の変化に対応して作られている
BGMは基本的に同じ雰囲気が続き、展開しないのが特徴です。
これは例えばトークでのバックグラウンドの音楽が展開すると、同じ言葉でも意味も変わってしまうためです。
対して、劇伴は感情や状況に合わせて展開が変わります。
1時間のテレビドラマのメインテーマが一番分かりやすいと思います。
時間軸で感情や状況が変化していくような音楽になっている。
悲しいところがあったり嬉しいところがあったり、激しいところがあったり。1曲の中でいろんな感情や状況が聞こえてくると思います。
そうして、例えばドラマの単話の最後のほうで、メインテーマの中の当てはまる感情、状況のところを編集で切り出して劇伴として使ったりします。
メインテーマを聞くと、その物語で表現したい重要な感情や状況は全部含まれています。
劇伴はそのシーンがどういう風に変化していくのかという時間軸をコントロールしながら作ります。
BGMと劇伴を使うときの違い
ここからは使い方の違いについて解説していきます。
先ほど言ったように、使い方で役割を変えることで
BGMとして機能するのか、劇伴として機能するのかが違います。
劇伴として作られたものをBGM的な使い方をしたらBGM的に聞こえるということもあります。
BGM:音楽が入ってくる場所がラフ
例えばライブ配信などでは、BGMのスタートはかなりざっくり入ってくるはずです。とりあえず音楽をスタートして、その音楽が鳴っている上で色々喋っていこう、のような感じ。
特にきっかけがあるわけではなくスタートする方がBGMっぽく聞こえます。
何かきっかけがあって音楽が入ると劇伴っぽく感じると思います。ライブ配信でもそういう風な演出が入ることがありますね。
対して演劇の中でBGM的に聴かせたいときは曲の途中からフェードインで入ってきたりもします。
BGM:音量はだいたい一定
お店などで音量が上がったり下がったりすると耳が混乱して困っちゃいますよね
なので基本は音量が一定で使われます。
BGM:あまり編集しない
基本的にBGMは切ったり貼ったりみたいなことはあまりしません。音楽をつける場所がシビアではないので編集をする必然性がないとも言えます。
ここで難しい概念が入ってくるのが、バラエティなどのテレビ番組。
これは一応BGMと言えるんだけれども、かなり尺の編集をしたり音量が変わったりして、音楽での演出がたくさんあるんですよね。
これは使い方という点で劇伴との違いを理解するのはかなり難しいかもしれないです。
かろうじて演技についていないというところでBGMと言えます。
劇伴:入るタイミングが重要
劇伴は演劇についている音楽なので、どの言葉を受けてどういう音楽が入るのか。それで印象がかなり変わるのでタイミングが超重要です。
ここを追求しだすと無限に奥深い。
劇伴:音量が変化する
音量を変化させることで 演出的なメリハリをつけることができます。
例えば、入る瞬間は大きくし、セリフを喋ってる時は小さく、盛り上がる時、終わるときは大きくなっていきます。
劇伴:よく編集する
劇伴は編集することも よくあります。
展開の流れに沿って尺を変えたり、綺麗に終わらせたり。
ドラマやアニメでは曲を作り貯めておき、それを切り貼りして使います。
BGMとして作られていても編集で劇伴っぽく聞こえさせるということもできます。
おわりに
BGMと劇伴の違い、わかっていただけたでしょうか!?
もしかして混乱させてしまっただけかもしれない…
実際に使われている場面だとグラデーションになっているのでわかりにくさはあると思います。
例えばBGM的に作った劇伴、のように。
作っていない人にはかなり分かりにくい概念のはずです。
実際に区分けする時はドラマやアニメ1本の音楽全部を劇伴と呼んでも差し支えがないと思います。
作る側はこういった違いを考えてギアチェンジして作ってますよ、っていうお話でした。
じゃあの!
動画
今回の内容を喋ったものです。